デバッグ・マジック! vol.17 ~もっと!『団結のドミナリア』編~
『団結のドミナリア』が発売してから1ヶ月が経過した。
久しぶりの新セットは、はたしてモダン環境にどのような変化をもたらしたのか。ここ1ヶ月のモダン環境の動向を見つつ、懲りずに新カードを使ったデッキを作っていくとしよう(ちなみについ2日ほど前に《空を放浪するもの、ヨーリオン》が禁止になったが、環境にはそこまで大きな影響はないと予想されるので特に言及はしない)。
■ 1. 無双する独創力
2022年8月~9月にかけてのモダン環境は、以下のようなメタゲームで展開していた。
Tier 1 |
Tier 2 |
前回から登場人物はほぼ変わっていないが、「独創力コンボ」がTier 1に上がった代わりに、「装備シュート」がTier 2に落ちた形となる。
ここでは4枚の《不屈の独創力》と0~2枚の《異形化》を採用しているものを「執政官独創力」、《異形化》の代わりに2枚以上の《頑強》を採用してサブプランとしてのリアニメイト要素を強めているものを「頑強独創力」と呼称しているが(ほか、《力線の束縛》を搭載した「版図型」もマイナーチェンジとして存在する)、いずれにせよデッキリストや使用者のプレイが洗練されてきたことにより、これらの「独創力コンボ」は往時の「《欠片の双子》コンボ」に近いポジションと使用感を獲得するようになってきている。
インスタント除去のためにマナを構えても《火+氷》でタップされてしまうし、その段階で既に場にいるトークンに除去を先打ちしたとしても、結局《不屈の独創力》の対象になっているトークンに対して除去を当てられなければ意味がないという点で、双子と同様にコンボ同型とコントロールに勝てる最強のコントロールコンボとしての立ち位置を確立しつつあると言えるだろう。
ちなみに「独創力コンボ」自体はフィニッシャーが《残虐の執政官》であることからコンボ同型での抑止力は双子ほどには高くないため、「独創力コンボ」の台頭は土地コンボや墓地コンボの復権につながると予想される。1ヶ月後には全く違ったメタゲームが展開されていても不思議ではないだろう。
他方、『団結のドミナリア』の影響という観点から見ると、最も使われている《力線の束縛》ですら主にいわゆる「サイ続唱」をTier 3からTier 2.5に上げた程度で、Tier 2以上への影響はほとんどなかったと言っていい。やはり『モダンホライゾン2』がもたらしたカードパワーの壁はどこまでも厚くそして高いというのが変わらない現状だ。
Modern Challenge #12470345 2nd Place
プレイヤー:scipios
1《桜族の長老》
4《イリーシア木立のドライアド》
豊富なインスタントによる受けと《イリーシア木立のドライアド》+《風景の変容》による瞬殺要素を兼ね備えた、「独創力コンボ」と同様のコンボコントロール。
従来は《白日の下に》を搭載して《風景の変容》を水増ししつつコントロール力を担保するアーキタイプだったが、《表現の反復》という少ない隙でサーチとアドバンテージを兼ねられるカードが登場したことと、《火+氷》の登場で小回りのきくインスタントが増えたことで、カウンター要素のある「タイタンシフト」的なコンセプトに近づくこととなった。
オムナスや続唱系、「独創力コンボ」など《差し戻し》が強い相手には滅法強く、反面1+1で動かれると途端に厳しくなるため、メタゲームを見て選択したいデッキだ。
Modern Challenge #12468579 1st Place
プレイヤー:PlaytoNguyen
3《モグの狂信者》
1《スカークの探鉱者》
4《人目を引く詮索者》
3《モグの戦争司令官》
4《飛び道具の達人》
4《ランドヴェルトの大群率い》
1《棘鞭使い》
3《ボガートの先触れ》
4《ゴブリンの女看守》
2《ゴブリンの首謀者》
2《投石攻撃の副官》
2《鏡割りのキキジキ》
4《霊気の薬瓶》
『団結のドミナリア』で《ランドヴェルトの大群率い》が登場したことで、地力が大幅に向上した。
召喚酔いが解けた《人目を引く詮索者》がいる状態で《ボガートの先触れ》を出して《鏡割りのキキジキ》をライブラリートップに積むとコンボがスタートし、《人目を引く詮索者》自身をコピーすることでタップ状態の《人目を引く詮索者》が無限に出し続けられるので、十分な量を出してから最後に《ボガートの先触れ》をコピーして今度は《モグの狂信者》か《投石攻撃の副官》をトップに積めば出したトークンを本体に投げられるようになるので大量ダメージで勝利となる。
もともとコンボで勝つためには殴り気を見せて除去を使わせるなどの工夫が必要なデッキタイプだが、その点《ランドヴェルトの大群率い》は戦線を強化しつつ除去に対するアドバンテージ要素も微力ながら持っているので、実用に一歩近づいたと言えるだろう。
ただやはり1マナ域の薄さはとてもモダンのデッキとは思えないほどなので、あとはいずれ出るであろう『モダンホライゾン3』でゴブリン版の《教区の勇者》が来てくれることを祈るばかりである。《節骨の魔女》ではさすがに……。
Modern Challenge #12480077 6th Place
プレイヤー:md91
4《激浪の形成師》
2《潮流の先駆け》
4《アトランティスの王》
4《真珠三叉矛の達人》
4《マーフォークのペテン師》
4《銀エラの達人》
4《ヴォーデイリアの呪詛抑え》
4《海と空のシヴィエルン》
4《緻密》
『団結のドミナリア』で待望の青単色の2マナロードの3種類目である《ヴォーデイリアの呪詛抑え》が登場し、さすがにそろそろ実用レベルかと期待が高まっているアーキタイプ。
ロード以外の能力が受け身であるゴブリンにおける《ランドヴェルトの大群率い》とは異なり、積極的に相手の行動に干渉できるロードなので、《霊気の薬瓶》だけでキープしたときに単なる肉ビートになりにくくなった。後手番は相変わらず課題だが、ほとんどマーフォークしか入っていないにも関わらず攻め・受け・継戦能力と揃っており、ガチデッキになる日もそう遠くはなさそうだ。
■ 2. もっと!『団結のドミナリア』でバグを探そう
『団結のドミナリア』は、残念ながらモダンのメタゲームに大きな影響を与えることはできなかった。
だが、将来的に何らかのデッキの種になりそうなカードはまだいくつも残されている。
デッキビルダーの仕事は、今この瞬間に完成したデッキを見せることだけではない。「将来こんなカードが来ればコンセプトが完成する」というような、あと一歩のところまでできた未完成のコンセプトを紹介するだけでも、いざそうしたカードが生まれたときに素早く反応ができるようになる。
つまり、バグそのものでなくともバグの可能性を見出すだけでもいいのだ。
最初のハードルは低めに、ただしあとからデッキにする際には容赦なくという精神で、様々なバグの可能性をデバッグ (発見・解明) していくことにしよう。
◇《伝説の秘宝》
「同じカードが8枚積めるならデッキコンセプトになる」というのはデッキ構築に関して私が標榜する格言のようなものだが、『団結のドミナリア』には2種類目が登場して8枚になったにも関わらずデッキにならないカードが存在していた。
《伝説の秘宝》。このカードは色マナが出せる以外は《名誉に磨り減った笏》のほぼ同型再販であり、その点を生かして《伝説の秘宝》と《名誉に磨り減った笏》を4枚ずつ合計8枚積んだデッキが組めないかと考えもした……だが、うまくいかなかった。そしてそれゆえに、私はその存在を忘れていた。
だが。ある日この連載の読者の方から、Twitterのダイレクトメッセージにこんな文言が届けられたのだ。
「モダンで3ターン目に決まるバグについて情報提供させてください。3ターン目に決まる無限コンボです」
しかもそれが、《伝説の秘宝》を使ったコンボだったのである。
はたして、その内容とは。
《心なき召喚》からの無限《アーチリッチ、アサーラック》だ。
《心なき召喚》が設置してある状態だと、《アーチリッチ、アサーラック》は1マナで召喚できる。この1マナを《伝説の秘宝》をタップして生み出し、さらに《アーチリッチ、アサーラック》の登場時効果にスタックして《アーチリッチ、アサーラック》をタップして《伝説の秘宝》からマナを出すことで、無限ダンジョン探索によって勝利することが可能となる。
しかもこの動きは2ターン目に《心なき召喚》を置いて3ターン目に《伝説の秘宝》設置からの《アーチリッチ、アサーラック》で最速3ターン目に決めることができるというのだから、確かに可能性を感じるコンボではある。
だが同時に、私はその明らかな弱点にも気が付いていた。
まず、単純に3枚コンボを集めるのが難しいということ。2枚コンボと3枚コンボとでは、コンボ達成までのハードルが倍くらい違う。そもそもモダンの一線級のデッキである続唱系のデッキや《不屈の独創力》などは、デッキ構築の制約があるとはいえほぼ1枚コンボである。揃えば即勝利とはいえ、「パウダー・オラクル」で学んだように、特定のカード3枚を揃えるというのは並大抵の難しさではない。
第2に、コンボパーツのカードタイプがすべて異なること。たとえばこれがすべて無色のアーティファクトならば《古きものの活性》で、すべてクリーチャーならば《孵化+不和》や《自然との融和》で、すべてエンチャントならば《精霊との融和》でそれぞれ効率良く探せたのだが、クリーチャーとアーティファクトとエンチャントを同時に探せる1マナの呪文は存在しないことから、《血清の幻視》《衝動》などの通常のドロースペルに頼らざるをえなくなってしまう。
最後に、それにもかかわらずこのコンボは3ターンキルするために2ターン目の2マナと3ターン目の3マナの使用用途が拘束されてしまっているということ。これではデッキ構造上2マナ以上のドロースペルを入れることがそもそもできない上に、1マナのドロースペルも3キル前提ならばゲーム中1回しか唱えられないことになってしまう。
こうした弱点が解消されない限り、このコンセプトはまともなデッキにはならない……私はそう考えていた。
だが、実態はその逆だったのだ。
一つの天啓が舞い降りたことで、私は思い知らされることになる……まともさを捨てることでようやくデッキになるパターンもあるということを。
《血清の粉末》と《大霊堂の戦利品》で無理矢理探せばいいのでは???
《血清の粉末》は0マナで新たな7枚を引き直せるため実質0マナ7ドローである。そう、2マナ以上のドロースペルが使えない上に1マナドロースペルが重ねられないというのなら、0マナでドローすればいいのだ。
また、1マナのドロースペルが重ねられないなら、1マナで確実にコンボパーツが手に入るカードを使えばいい。それが《大霊堂の戦利品》で、人間死ぬ気になれば何でもできることを表した良いカードである。ちなみに唱えた瞬間実際に何割か死ぬ。
モダンで0マナのアクションといえば《ミシュラのガラクタ》と《通りの悪霊》だ。これらは実質的にデッキの圧縮につながるので、3枚コンボを揃えるのに都合が良い。
なお《大霊堂の戦利品》と《通りの悪霊》が同居しているのは人格が分裂している以外に考えられないのだが、こうでもしないとコンボパーツが集まらないので仕方がない。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
デッキビルド:まつがん
4《アーチリッチ、アサーラック》
4《通りの悪霊》
一人だけ別のカードゲームやってないか???
だがそれもある一面では真実ではある。何せ《血清の粉末》は0マナ7ドローなので「オーキドはかせ」である。そして《大霊堂の戦利品》は一定確率で特定のカードをサーチするので「ウッウロボ」と言える (ただしコインで裏が出ると死ぬ)。つまりこのデッキは実質ポケモンカードと言っても過言ではない (?)。そう、マジックでバグを作るコツとは、マジックでは本来不可能な動きを実現するカードを採用することなのだ。
◇《信仰を穢すもの》
『団結のドミナリア』には、「不可能を可能にする」サイクルが存在する。マジックのルールそのものを書き換えてしまうような、そんなサイクルが。
《信仰を穢すもの》。対応する色のパーマネントに関して、色マナ1つをファイレクシア・マナに変えてしまうこのカードは、「本来支払うべきマナを0にする」という点において、必然的に無限コンボの可能性を内包している。
前回は赤の《本能を穢すもの》を使ったが、今回は白のこいつを使うとしよう。というのも、パーマネント・カードを唱えたときの能力が赤に次いで無限コンボ向きだからだ。
とはいえ、このサイクルで無限コンボを作るなら《にやにや笑いのイグナス》のように再利用できるカードが必要なことは前回学んだとおりである。
では、《信仰を穢すもの》の場合における《にやにや笑いのイグナス》とは何だろうか?
そう、《白たてがみのライオン》だ。
このカードならば自身を出し入れできるので、《信仰を穢すもの》と揃えば無色1マナと2点のライフで1/1トークンを出せるギミックとなる。
だが、もちろんそれだけではゲームに勝つことはできない。ゲームに勝ちたいなら、これを無限のギミックに昇華する必要がある。
このギミックにおいて無限への障害となっているのは、無色1マナと2点のライフだ。
ならばどうするか?
マナコストを軽減すればいいのでは???
《雲の鍵》や《オケチラの碑》を設置すれば、《白たてがみのライオン》のマナコストのうち無色の部分は消滅するので、2点のライフを支払うだけで《白たてがみのライオン》を出し入れすることが可能となる。
さらにこれなら《信仰を穢すもの》自身の着地も早まるため一石二鳥だ。
あとは2点のライフをどう埋め合わせるかだが、《オーリオックのチャンピオン》や《裕福な亭主》などの《魂の管理人》系クリーチャーを出しておけば《白たてがみのライオン》の着地と生成されるトークンと合わせて2点のライフが得られるので、無限トークンコンボの完成だ。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
デッキビルド:まつがん
4《貴族の教主》
4《オーリオックのチャンピオン》
4《裕福な亭主》
4《白たてがみのライオン》
4《信仰を穢すもの》
4《孤独》
4《エラダムリーの呼び声》
4《雲の鍵》
4《オケチラの碑》
4《楽園の拡散》
こんなことしてる暇があったら《太陽冠のヘリオッド》+《スパイクの飼育係》で無限ライフしろ!!!😡😡😡
◇《戦闘研究》
「同じカードが8枚積めるならデッキコンセプトになる」。ならば、12枚積んだら最強では?
《戦闘研究》。『団結のドミナリア』で登場した、攻撃が通るたびにドローできるエンチャントだが、モダンには同様の効果を持つカードが他にも存在する。
それが《好奇心》と《執着的探訪》で、もしこれらのエンチャント3種12枚で実用的なコンセプトが組めるならば、そのデッキは極めて高い再現性を有することになる。
では、これらのエンチャントを使ってどのようなコンセプトが組めるだろうか?
そう、すなわち。
ブロックされないクリーチャーに3枚とか4枚とか付けまくって毎ターン大量ドローしたら最強では???
「ブロックされない」能力は「飛行」や「威迫」を超えて100%の安全を提供するものだ。そして青には《這い寄る刃》《グドゥルの闇潜み》《霧まといの川守り》と3種の「ブロックされない」1マナ域が存在しているので、これらの3種12枚に《好奇心》3種12枚を合わせれば超再現性デッキが爆誕する。
とはいえこれだけだとゴミにゴミエンチャントが付いただけなので除去1枚で終わってしまい手の込んだ自殺となってしまう。
だがそこを《否定の力》や《撹乱する群れ》などのピッチカウンターで守ってやれば、対戦相手の表情からも次第に笑みが消えていくに違いない。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
デッキビルド:まつがん
純粋無垢な小学生「ねー先生!ボク、最初から一人でこういう《好奇心》が付いたみたいなクリーチャー知ってるよ!!」
まつがん先生「それはなんだい?」
純粋無垢な小学生「あのねー、ラガバンっていうの。」
まつがん先生「……ぐはぁっっっ!!!(死因:己の無力さを知ったため)」
◇その他残飯
さて、以下では私が満足いくレベルのデッキには仕上がらなかったものを紹介しておこう。
《偏執的な援護者、ステン》って《エーテリウムの彫刻家》と《熱心なメカ乗り》の3種12枚目……つまり2体並べて2マナまでのアーティファクトを0マナにするデッキが組めるのでは???
デッキビルド:まつがん
4《マイアの回収者》
ステン抜けてるじゃねーか!!!
リミテッドで強いカードは構築でワンチャン……つまり《翼套の司祭》を入れてモダンのカードプール中の「防衛」持ちを集めたら最強では???
デッキビルド:まつがん
4《儚い存在》
4《エラダムリーの呼び声》
4《霊気の薬瓶》
4《精霊界との接触》
モダンでこんなん出してる暇があるわけねーだろ!!!
《新ベナリアの守護者》で白に2マナの「破壊不能」持ちの3種類目が登場した。ならば、これらを活用したコンセプトが組めないだろうか?
デッキビルド:まつがん
真面目にやれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
■ 3. 終わりに
『ニューカペナの街角』と比べると短い間だったが、『団結のドミナリア』との付き合いはこれで終了となる。
来月11月18日 (金) には新セット『兄弟戦争』が発売となるからだ。
ウルザとミシュラのセットということは、強力なアーティファクトが登場するのではないかと予想される。そうなれば、モダンにもまた新たな風が吹きそうではある。発売を楽しみに待つとしよう。
ではまた次回!
クソデッキビルダー。独自のデッキ構築理論と発想力により、コンセプトに特化した尖ったデッキを構築することを得意とする。モダンフォーマットを主戦場とし、代表作は「Super Crazy Zoo」「エターナル・デボーテ」「ステューピッド・グリショール」など。Twitter ID:@matsugan
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