平成スーパー戦隊 レッツ・ゴー!レッツ! 第2回 進化するロボットと現れるヒール、平成中期の多彩な作品群
こんにちは、結騎了です。平成という約30年間に放送されたスーパー戦隊シリーズを追う連載企画、『平成スーパー戦隊 レッツ・ゴー!レッツ!』。今回が第2回となります。
第1回である前回は、平成最初の戦隊作品『高速戦隊ターボレンジャー』から2000年の『未来戦隊タイムレンジャー』までを、いくつかをピックアップしながら紹介しました。赤がリーダーで、5人構成で、敵の軍団がいて、ロボットで戦って……。そういった定番のフォーマットの中で、同シリーズがいかに「人間」や「ドラマ」を描いてきたのか。少しずつ広がっていく作品の幅や、盛り込まれた新たなパターンなど、いくつかの特徴が見られました。
今回は、そこから世紀をまたいだ、平成中期の作品群にフォーカスしていきます。フォーマットを継承しながらも、更にバラエティ豊かに。そして、商業作品としての側面も強化が図られたのです。
巨大ロボット玩具の変遷
スーパー戦隊シリーズは株式会社東映によって制作されていますが、玩具は株式会社バンダイからの発売になります。今現在も玩具コーナーの特等席に配置されることが多く、「どんな玩具が発売されるのか」には毎年大きな注目が集まるのです。
同シリーズの玩具といえば、もちろん、武器が欠かせません。代表的なところでいくと、敵怪人を倒すための剣、あるいは銃でしょう。もちろん、斧や弓、あるいはそれら全てに変形できる特殊なデザインのものもあります。同時に、肝心要の変身アイテムも重要です。ブレスレットタイプから、携帯電話を模したものまで。子供たちのなりきり遊びを盛り上げる工夫が、随所に散りばめられています。
しかし、何より忘れてはならないのが、巨大ロボット玩具です。番組後半、敵怪人が巨大化すると、ヒーローたちは呼び出したロボットに搭乗して応戦します。このロボットは、戦隊玩具における価格帯が高いため、毎年最も力が注がれているといっても過言ではありません。その元祖は、1979年の『バトルフィーバーJ』(シリーズ3作目)にまでさかのぼります。そしていつしか、「ヒーローそれぞれのマシンが合体して一体のロボットになる」というパターンが確立されるのです。
そんな巨大ロボットの歴史は、2001年『百獣戦隊ガオレンジャー』にて大きな飛躍を見せます。オルグという鬼の一族と戦う彼らは、精霊であるパワーアニマルと心を通わせるのですが、その最大の特徴は、映像面で大胆にCGが用いられたこと。ガオライオンという名の巨大な赤いライオンが、ド迫力のCGで描かれたのです。雄々しく吼えるその姿は、子供たちの心を鷲掴みにしました。
余談ですが、1999年に放送が開始されたアニメ『ゾイド -ZOIDS-』においても、劇中のゾイドはCGで登場。メカ生命体であるゾイドをCGで描くその手法は、驚くほどの説得力を発揮しました。そういった意味で、精霊に位置づけられたガオライオンも、その映像が説得力に一役買っていたのかもしれません。奇しくも、どちらも「巨大なライオン型のCGモデル」でした。
そんなガオライオンと共に、ガオイーグル・ガオシャーク・ガオバイソン・ガオタイガーが百獣合体することで、同作の巨大ロボット・ガオキングが姿を表します。百獣の王に相応しいストレートなネーミングが印象的です。
このガオキングに持ち込まれたのは、戦隊の歴史を大きく変えた「換装」というギミック。次々と現れる新たなパワーアニマルたちを腕や脚に変形させ、戦況に応じて付け替えて戦うのです。例えばガオジュラフは腕に変形しますが、これを武装する際はガオシャークが取り外される、といった流れ。これにより、ロボットの拡張性が一気に高まり、それはもちろん、玩具でも再現が可能でした。
つまり、「ロボットの腕」「ロボットの脚」という玩具が、「新たなパワーアニマル」という触れ込みで発売されていくのです。付け替え遊びの楽しさはもとより、後に、武装動物たちを組み合わせた別個体のロボットが登場するなど、組み合わせは多岐にわたっていきました。「変形」させてからの「合体」。更には、劇中には登場しない合体パターンまで作ることができる。この、ロボットの部位をコレクションする販売方法は大好評となり、『ガオレンジャー』は商業的にも大きな成功を収めたのです。
ロボット玩具、あるいはその描かれ方は、その後も進化を続けます。2004年『特捜戦隊デカレンジャー』では、今度は合体後の巨大ロボットがCGでアクロバティックに立ち回ることで、玩具への訴求力を高めました。続く2005年『魔法戦隊マジレンジャー』では、5体合体にも2つのパターンがあるという大胆な方法を採用。こうして、巨大ロボットというフォーマットにも、次々と新風と実績が舞い込んでいったのです。
▲双葉社より発売中のDVD、『スーパー戦隊VSシリーズ バトルヒーローイッキ見!!! 百獣戦隊ガオレンジャーVSスーパー戦隊 特捜戦隊デカレンジャーVSアバレンジャー』。映画2作が収録された、リーズナブルな一品です。
ドラマを盛り上げるヒールなヒーロー
ドラマ面では、「悪いヒーロー」という一見矛盾するような存在が次々と登場しました。
代表的なところでいくと、2002年の『忍風戦隊ハリケンジャー』です。レッド・ブルー・イエローで構成される3人チームの忍者戦隊ですが、なんと、流派の違うもうひとつの戦隊が登場します。その名も、電光石火ゴウライジャー。ハリケンジャーを圧倒するクールでダーティーなその振る舞いは、ハードなドラマをより一層盛り上げました。幾度となく対立するふたつの戦隊でしたが、物語中盤に和解し、晴れて5人組のチームとなります。互いを傷つけあった彼らがどのように合流するのか。その展開を、多くの視聴者が固唾を呑んで見守りました。
2003年の『爆竜戦隊アバレンジャー』には、アバレキラーという悪役が登場。白いアバレンジャーという一見ヒロイックな見た目ながら、その凶悪さはシリーズでも群を抜いていました。アバレンジャーを痛めつけ、自身の目的のために手段を選ばない独善的なスタイルは、「どうせ後々仲間になるんだろう」という多くの視聴者の予想に影を落とし続けます。通常、ヒールな存在は黒系統の色が割り当てられることが多いのですが、アバレキラーは、前述のとおり白いスーツのデザインです。これを含めた、気品とキザに彩られたキャラクター造形は、逆説的に、アバレンジャーの真っ直ぐな正義を何度も描いてくれました。
ゴウライジャーも、アバレキラーも、それぞれ専用のロボットを操り、主役ヒーローたちと同じ武装で戦います。「悪役の玩具」という販路が確立され始めたのも、この辺りの時期でしょうか。
また、2007年の『獣拳戦隊ゲキレンジャー』にも魅力的な悪役が登場するのですが、先の例とは少しパターンが異なります。この場合は、怪人を繰り出す敵組織のリーダーという、絶対的に和解が難しいポジションに、リオというキャラクターが配置されました。彼はもちろん「悪いやつ」なのですが、ストイックに強さを求め、ゲキレンジャーの良きライバルとして存在し続けます。彼がなぜ頑なに強さにこだわるのか。リオを愛するカメレオンの怪人・メレと共に、ドラマの尺がしっかりと割かれていくのです。
単なる「ヒーローに倒される怪人」の域を超えた、群像劇の立派な一員。スーパー戦隊のフォーマットをある種逆手に取るような作劇は、少年漫画的な熱さと融合していきました。
悪役は、正義の定義を増やします。主役の戦隊チームが叫ぶ正義と、悪役が掲げる正義。2001年のアメリカ同時多発テロ以降でしょうか、色濃くなっていった「立場により異なる正義」というマインドは、他ならぬ戦隊シリーズにも浸透していきました。悪役はシンプルに「かっこいい」のですが、それ以上に、彼らの存在こそが主役戦隊の善性を際立てるのです。
モチーフと共に持ち込まれる文法
また、平成中期の戦隊作品は、ドラマや映画といった数多の映像作品、そこにあるジャンルの文法までもを取り込んでいきました。
代表的なのは、2009年の『侍戦隊シンケンジャー』。ひとりの殿様と4人の家臣という侍モチーフの戦隊ですが、そのストーリーや演出には、時代劇の手法が数多く盛り込まれました。面白いのが、変身と名乗りのシーン。レッドから順に名乗るくだりに合わせ、複数人の黒子が登場し、その環境や演出を整えてくれるのです。その後の戦闘は、もちろんチャンバラ。ジリジリとした鍔迫り合いもあれば、一騎当千で怪人の群れを圧倒する様子など、刀を使ったアクションも見所です。
ストーリーは、「1+4」という『未来戦隊タイムレンジャー』でも用いられた構図に、主従関係というエッセンスが盛り込まれました。これにより、ハードながらハートフル、人情モノとしても成立する和のドラマが展開されていくのです。今や大人気俳優となった松坂桃李の主演作としても、多くの方にオススメしたい一作。
また、『特捜戦隊デカレンジャー』には、その名が指す通り、刑事ドラマの文法が持ち込まれました。「事件発生」→「捜査」→「捜査線上に敵怪人が浮かび上がる」→「戦闘」という本作のフォーマットは、シンプルに優秀だったと言えるでしょう。刑事ドラマと同じバリエーションで、潜入捜査やおとり捜査が描かれていくのです。そのハードボイルドなテイストは、これまた多くの視聴者の人気を獲得しました。職業ドラマと定番フォーマットの融合は、その後も様々なヒーロー作品に応用されていきます。
『魔法戦隊マジレンジャー』にはファミリードラマが、『轟轟戦隊ボウケンジャー』には『インディ・ジョーンズ』のようなアトラクション性の高い作劇が見られます。この頃のシリーズは、平成初期の「フォーマットの拡大」を更に推し進めていたのです。
ドラマ面での変化と、商業的な進歩。ロボット玩具は「換装」という定番路線を獲得し、また、物語は様々な性別や年齢層に訴える幅広さを兼ね備えていきました。時に登場する悪役たちも、物語の縦軸を牽引していきます。
すでに子供向け番組として絶対的な地位を築いていた同シリーズも、この頃には累計30作品を超え、昔戦隊を観ていた子供が親になる時代がやってきました。そんな広い視聴者層に訴えるべく、シリーズも柔軟性を求めたのかもしれません。そして、そんな世代を超えた激闘の歴史は、2011年の『海賊戦隊ゴーカイジャー』に集約されていくのですが、こちらは次回、第3回で取り上げることにしましょう。
映画・特撮好きのブロガー。『別冊映画秘宝 特撮秘宝』『リアルサウンド映画部』『週刊はてなブログ』等に寄稿。
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