美少女ゲーム界隈と美少女フィギュア市場のカンケイ【番外編】 ~えろげの勇者たち~
前回まででたっぷり、本当に大量のテキストを費やして「Fateシリーズの登場時期にPVC製塗装済完成品フィギュア市場の黎明期が重なった」事を書いた訳ですが、まだまだ語り足りないというか端折った感じになってしまうのがあの時代あの業界の怖いところ。
なので今回【番外編】としてもう少し語ってみます。
内容が内容なので今回はいつも以上に画像多めですので閲覧にはご注意ください。
毎度毎度ですが、視野の狭い個人的な記憶と経験をベースに語っています。かつ、文中敬称略です。ご了承ください。
当時萌え市場の最前線にあったPC美少女ゲーム界隈からのPVC塗装済完成品フィギュアが多数発売されたのは前回までのコラムにある通り、実際にはそれ以上の商品が立体化されています。
そこで「Fate」以降は現在のように「Fate」一色に染まったかと言うとそんなことはなく、むしろ「Fate」よりもその他のPC美少女ゲーム関係のアイテムがものすごい出ていたと言う印象が強かったなーと思って調べてみたら、予想以上にPC美少女ゲーム関係ばっかでした。
まず現在のリーディングカンパニーと言っても過言ではないグッドスマイルカンパニー。
2004年9月に初の自社商品発売と会社沿革にもありますが、この商品がサーカス『D.C. ~ダ・カーポ~』のメインヒロイン(かつ妹)「朝倉音夢 水着ver.」。
既にコンシューマーへの移植、TVアニメ化まで果たされていたとは言えれっきとした18禁ゲーム出身のヒロインがグッスマのデビュー作なのです。
なお一般販売は9月ですが、それに先駆けて8月開催のワンダーフェスティバルにてカラバリ(色違い・カラーバリエーションの略)版の「朝倉音夢 水着ver.」を販売しており、グッスマの美少女フィギュアはエロゲのヒロイン(しかも妹)から始まっているのは間違いない事です。
11月には同じく『D.C. ~ダ・カーポ~』の「白河ことり 水着ver」を発売、ゲーム内の人気上位ヒロインが続けて立体化される事で当時のエロゲーユーザーにも「グッスマ」の会社名が浸透していきました。
この「白河ことり 水着ver」は後年に再度放送されたTVアニメに併せて再販も行われ、同時期にMAXファクトリーからも「白河ことり」が発売されました。
ツールメーカーのウェーブがPVC塗装済完成品フィギュア参入だった商品も『D.C. ~ダ・カーポ~』の「鷺澤頼子」です。
グッドスマイルカンパニー「白河ことり 水着ver」(左)
グッドスマイルカンパニー「朝倉音夢 水着ver」(右)
「月刊ホビージャパン 2004年10月号」より
その後もグッスマは『Piaキャロ3』の「高井さやか 水着ver」を11月に発売、前々回のトロピカルタイプを発売したコトブキヤに続いてここでも「高井さやか」ですよ。
さらに調べれば、コトブキヤはトロピカルタイプに続いて「高井さやか 水着ver」も発売しており、トレーディングフィギュア中心のメーカー、トイズ・プランニングも「高井さやか 水着ver」を発売しています。
『Piaキャロ』はゲーム本編よりもこう言った所で名を残している印象です。
グッドスマイルカンパニー「高井さやか 水着ver」
なお、『Piaキャロ3』の原画担当・橋本タカシは、後年にSphere『ヨスガノソラ』の原画も担当。
銀髪ツインテールのメインヒロインにして、TVアニメ化の際地上波放送にて(ピーーーーー)を送ったエロゲ業界が放つキモウト「春日野穹」の原画・キャラデザを担当しました。
この「春日野穹」は複数のメーカー、複数の衣装、シチュエーションで度々立体化され続け、2019年中や今後も新作の発売が予定されており、「PVC塗装済完成品フィギュアでエロゲー業界を代表するキャラの一人」と言っても過言ではありません。
2019年8月発売予定、アルファマックス「春日野穹 着物ver」
ワンダーフェスティバル2019冬 メーカー展示にて
発売時期未定、アルター「春日野穹 Ending ver.」
メガホビEXPO 2019SPRING メーカー展示にて
これらPC美少女ゲームのアイテムが黎明期に多数発売されたのは、当時の萌え市場最前線にあったと言う事以外にも、前々回のコラムに書いた「PCゲームの版権元は、自社コンテンツをゲームファンに知ってもらおうと、GK即売イベントなどにおいても積極的に版権許諾を実施する傾向にあります。それが、フィギュア原型師のモチベーションの後押しとなっているのは間違いなさそうです(「ホビージャパンMOOK オールザットフィギュア2000」)」と言う版権側の事情も入っていると思われます。おぉっロングパス伏線。
メーカー側が立体に関して理解が深い例ですと、前回までのTYPE-MOONや自社版権窓口を持つニトロプラスが正に現在進行形でのその実例に当たるのですが、この時期にそれを実践して多数のアイテムを排出したPC美少女ソフトメーカーとしてグッスマから立て続けに新商品を発売したユニゾンシフトを挙げます。
ユニゾンシフトの『Piace@Pieces』のWヒロイン百瀬玉と秋川凪が2005年8月、9月に相次いで立体化。原画担当・いとうのいぢの丸々しくキュートで可愛らしいラインと特徴的な髪型をシャープに立体化しており、ソフトの購買層以外にもキャラクターの認知度を広げることに成功しています。
後年にこの『ぴすぴす』のWヒロインは、アルターから劇中の別衣装でも揃って立体化、登場するサブキャラでありユニゾンシフトの前作に当たる『こもれびに揺れる魂のこえ』にも登場した「デス先生」もアルターから商品化され、ユニゾンシフトの追っかけは大歓喜でした。
グッドスマイルカンパニー「百瀬玉」(右)、「秋川凪」(左)
2016年8月開催、グッドスマイルカンパニー15周年展示会にて
アルター「ナギ 死神装束ver.」
アルター「デス先生」
ちなみに原画担当いとうのいぢが押絵を担当したライトノベル『灼眼のシャナ』はこの2005年10月にTVアニメが放送開始しますが、そのアニメ前にのいぢキャラの立体化を果たすとは先見の明ってレベルじゃないです。
この後もユニゾンシフトの作品からは『WAGA魔々かぷりちお』『Chu×Chuアイドる』『ユニティマリアージュ ~ふたりの花嫁~』『Flyable Heart』『ななついろ☆ドロップス』のヒロイン達がグッスマから立体化されています。
衣装が殆ど半裸のガチエロゲもあるのに凄いな!
グッドスマイルカンパニー「メリッサ・セラフィ」
2016年8月開催、グッドスマイルカンパニー15周年展示会にて
ちなみに『WAGA魔々かぷりちお』の「メリッサ・セラフィ」は、前回の「Fateライダー」や「クレイズセイバー」と同様に、過去にイベント版権でアマディーラーが販売したキットを塗装済完成品として販売した件なのですが、一般ディーラーでの「メリッサ」展示を撮影・レポを掲載した某WEBメディアが「カボチャ娘」と原作を知らずに掲載した事があり、当時の色々な意味での時代性を感じます。
このPVC塗装済完成品フィギュア黎明期に前述通り「高井さやか」を筆頭に『Piaキャロシリーズ』から多数のキャラを排出したF&C(エフアンドシー)で『Piaキャロ』以外で立体化された印象深いキャラと言えば、『水月』のメイド「琴乃宮 雪」が挙げられます。
どれだけのプレイヤーにメイド属性を付与したか判らないほどの影響を持つメイド萌えの始祖の始祖とも言うべき銀髪メイドさんも、グッスマ含め複数のメーカーから立体化されています。
メーカーからの商品案内を「脱げる」と解釈した店が暴走して「スカート脱着可能」と煽って予約開始を告知したりしたことがあったりしましてね…。
グッドスマイルカンパニー「琴乃宮 雪」
2016年8月開催、グッドスマイルカンパニー15周年展示会にて
クレイズ「琴乃宮 雪」
グッスマ以外のメーカーだと、先んじてレジンキットを発売しPVC塗装済完成品の発売を続けていたコトブキヤも、PC美少女ゲームからの商品を次々リリースしています。
F&C『魔女っ娘ア・ラ・モード』の「シルビア・アイゼット」「エレーネ・シルバーナ」、スタジオメビウス『SNOW』から「雪月澄乃」「北里しぐれ」「日和川旭」と発売したラインナップからは、レジンキットで人気がありPVC塗装済完成品でも十分に売れると判断したと思われますし、『SNOW』のシリーズからはメーカーのノーマルな立ち姿でない様々なポーズの塗装済完成品を提供するという技術的な挑戦も感じることが出来ます。
この時期の萌えエロゲの代表として挙げられるメーカーに「オーガスト」の各作品があります。
原画家べっかんこうの柔らかく可愛らしいラインのキャラクターも各メーカーから立体化が行われ、ウェーブがPVC塗装済完成品フィギュアを定番化させる商品が『月は東に日は西に』の「藤枝保奈美」でこれ以降もオーガストキャラを次々立体化して行きます。
このキャラはクレイズからも商品化が行われています。
また和風堂玩具店からは発売されたトレーディングフィギュアは原型をMAXファクトリーが担当し、エンターブレインのPC美少女ゲーム専門誌『TEAC GIAN』にてメーカーコラムにて連載が行われ、ファンブック「All over the August : オーガストファンbook」には限定のトレーディングフィギュアが同梱されました。
ウェーブ「藤枝保奈美 イベント限定白水着ver.」
和風堂玩具店「月は東に日は西に」トレーディングフィギュア
原型担当はMAXファクトリー
PC美少女ゲーム業界の流れでは、「Fate」にまだ沸き立っている2004年末にプレイステーション2にて『To Heart』の続編『To Heart2』が発売され、翌2005年末には18禁要素を加えてPC版でリメイクした『To Heart2 XRATED』が発売されます。
前作『To Heart』程驚天動地の影響を与えたと言うわけではないんですが、キャラクター認知度に関しては完全に『2』のほうが上、特に幼馴染で姉で赤毛ロングでダイナマイトバディなヒロイン「向坂 環」通称「タマ姉」は圧倒的な人気を誇りました。
風聞ではエロゲ界隈の姉妹人気を妹→姉に塗り替えたと言われるほどです。
立体化に於いてもその数は圧倒的で、前述の「春日野穹」をはるかに超える「PVC塗装済完成品フィギュアでエロゲー業界を代表するキャラ」筆頭です。
2011年発売の『美少女フィギュア白書 2011』にほぼ三頁丸々タマ姉が掲載されていたと言うこともありました。
MAXファクトリー「向坂 環」
コトブキヤ「向坂 環 挑発ver」
色々なアイテムを上げましたが、「へっ所詮はTVアニメになるようなヌルい萌えエロゲじゃねーか」と思う向きもあるかもしれません、が、そんな方に用意してあるカウンターも有ります(嬉しそう)。
まずMAXファクトリー。『DEAD OR ALIVE 霞』はカラバリ含め一万体以上を発売したベストセラーとなり、発売元のグッスマと二人三脚でPVC塗装済完成品フィギュア市場の発展に大きく寄与しています。そのメーカーが2005年末に発売したのが、エウシュリー『幻燐の姫将軍2』のメインヒロイン「イリーナ・マーシルン」です。エウシュリーは物語中心のノベルゲーと言われる選択型AVGがシステムの殆どになったPC美少女ゲーム市場で、世界観はファンタジーをメインとしたやり込み系RPG・SLGを頑固一徹にリリースし続け、リリース数は少ないながらも固定客による高い支持があるブランドです。ただし「萌えの最前線」からは一歩離れた作風なので、正直このメーカーのヒロインが塗装済完成品フィギュアで出るとは、しかもMAXファクトリーのような高精細なメーカーから出るとは予想だにしていませんでした当時。
なお、エウシュリー作品からの立体化としては『冥色の隷姫』ヒロイン「シルフィエッタ・ルアシア」が2007年末にアトリエ彩より商品化されています。
MAXファクトリー「イリーナ・マーシルン」
アトリエ彩「シルフィエッタ・ルアシア」
そしてアルター。
前述のように『ぴすぴす』からの立体化を行っていますが、その前である2006年に「なぎさ MADE in HEAVEN SuperS」を発売、これはPIL『MADE in HEAVEN SuperS』のヒロインの立体化ですが、原作の『MADE in HEAVEN SuperS』を発売したPILは、PC美少女ゲーム業界でも“奇才”と言われた田所広哉が代表のブランドで、調教SLG『SEEK』、リアルタイムコマンド選択式陵辱監禁ゲーム『学園ソドム』等、This is 18禁!な作品を出し続けたメーカーです。
そのPILが『ToHeart』の頃に出したのが『MADE in HEAVEN』。
メイドになったヒロインなぎさとひたすらHな事をすると言う内容で、主題歌の「メイドさんロックンロール」は後の「電波ソング」の先駆けとも言える存在でした。
その『MADE in HEAVEN』がリニューアルされたのが『MADE in HEAVEN SuperS』。問答無用のエロゲーで、そこからの立体化がアルターからですよ、ロックな業界と時代ですよ本当。
ここで一つ、PIL創始者でもあり「メイドさんロックンロール」の作詞もしたクリエイター・田所広哉氏は昨年末に他界されています。
年始にトークイベントを控えての急逝でした。改めてご冥福をお祈り申し上げます。
アルター「なぎさ MADE in HEAVEN SuperS」
これらのPC美少女ゲーム業界からの多種多様な立体化はまだまだ数があり語り足りない程です。
しかしPVC塗装済完成品フィギュア市場としては、その数は2007年辺りを境に減少していきます。
PC美少女ゲーム数が云々よりももっと判り易い理由で、一つのアニメ作品がオタクコンテンツ界隈を席巻したからです。
そう、2006年にTVアニメが放送された『涼宮ハルヒの憂鬱』です。
MAXファクトリー「涼宮ハルヒ」
ライトノベル原作の『涼宮ハルヒの憂鬱』は深夜アニメの枠を超えた超ヒット作品で、その人気は放送中よりも放送後により加熱、サービスを開始した「ニコニコ動画」の「踊ってみた」動画などをも巻き込んでの大きなムーブメントになります。
立体化は、放送終了後の2006年10月にMAXファクトリーがPVC塗装済完成品での商品化を発表、と同時にネット実店舗問わず予約の段階から争奪戦とも言うべき状態になり、即時に再販が決定。
発売が行われた2007年2月には店頭に並ぶことすらほぼ無いような状況で、2007年中に再々販が行われるレベルでの圧倒的人気になり、この年以降美少女フィギュア市場で確固たる地位を築きます。
放送中に開催されたワンフェス2006夏では流石に見なかったのですが、翌年のワンフェス2007冬からは一般ディーラーの「ハルヒ」作品が急増。
会場全体あちらこちらでハルヒ始めSOS団が展示されているという状態で、版権元である角川書店が当日版権ルールを一部変更するまでに至っています。
2007年2月、MAXファクトリー「涼宮ハルヒ」入荷日の秋葉原各店舗の告知
「5000個」は限定でも何でもなく生産一回に於ける最大ロット数だったと言う話です
「ハルヒ」以降はグッスマから『ねんどろいど』シリーズ、MAXファクトリーから『figma』シリーズとこれまでにない安価で入手し易いアクションフィギュアシリーズが次々展開され、さらに大きな一般層に訴えかけることになります。
「電車男」以降のアキバブームとオタク関係市場の広がりもあり、PVC塗装済完成品フィギュアはオタクグッズの一つとして当たり前のもの、オタクなら誰しも所有して可笑しくないレベルのものにまで浸透した、と言えます。
一般に浸透した市場と裏腹に、PC美少女ゲームからの立体化は数が少なくなり、正直どんどん存在感が薄くなる印象で、最新作からすぐにと言う事も殆どなくなりました。
それでも非常に高く蓄積された技術で過去の名作の立体化が行われる事があり、あの「萌えの最前線」を体験した人間を歓喜させてくれます。
2017年に虚淵玄脚本の『沙耶の唄』の「沙耶」、2018年には最盛期に「延期四天王」の名を欲しいままにした『LOVERS ~恋に落ちたら~』の「河合理恵」、電波ゲーとして名を残している『さよならを教えて ~comment te dire adieu~』の「天使様」が立体化されており、あの時代をリアルタイムに知る者として喜ばしいことこの上ありません。
ウィング「沙耶」
原作はニトロプラス『沙耶の唄』。虚淵玄脚本の“愛”の物語
花畑と美少女「河合理恵」
原作はジェリーフィッシュ『LOVERS ~恋に落ちたら~』
アニメーションによるHシーンと延期に次ぐ延期を繰り返したことが有名
ネイティブ「天使様」
原作はクラフトワーク『さよならを教えて ~comment te dire adieu~』
ゼロ年代エロゲ「三大電波ゲー」の一つ
と言う訳で「Fate」以降で「Fate」以外の美少女ゲーム界隈と美少女フィギュア市場の関係でした。4月から続けた無軌道で無鉄砲なこのタイトルも一応の〆です。あんまり上手くまとまってませんが。お読み頂きありがとうございます。
参考書籍
「エロゲー文化研究概論 増補改訂版」著・宮本直毅/総合科学出版
「月刊ホビージャパン 2004年10月号」ホビージャパン社
「月刊ホビージャパン 2004年11月号」ホビージャパン社
「All over the August : オーガストファンbook」エンターブレイン社
「美少女フィギュア白書 2011」アスキー・メディアワークス
フィギュア中心のアキバ系サイト「常時リソース不足RX」の中の人。通称センセイ。 美少女フィギュア以外にもPC美少女ゲーム、特撮、90年代ゲーム、阪神タイガース辺りにサブポジ○があります。
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