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美少女ゲーム界隈と美少女フィギュア市場のカンケイ【4】~邪神 覚醒~

公開日:センセイ (べ・一文字)

連載と言う事で続きモノにしたら文章量が凄いことになっていますが皆様付いてこれてますか?
前回でもチラリと書きましたが、この時期の美少女ゲーム界隈は現在まで続く萌え産業の礎ですからどうしても語る量が多くなってしまいますがまだ続きます、お付き合い下さい。
繰り返しですが、極めて視野の狭い個人的な記憶と経験をベースに語っています。かつ、文中敬称略です。ご了承ください。

 

この時期、2002年ごろチョコエッグを起点とした食玩ブームは完全に定着し、様々な企業がこの「塗装済完成品」を扱う様になります。
フィギュアの有名企業グッドスマイルカンパニーもこの時期に玩具の企画・制作OEM業務を開始しています。
ですがそのチョコエッグは、封入されているシークレットの扱いや原型金型管理等様々な要因を経てフルタと海洋堂が決別、フルタは他社製作のキャラフィギュアを中心に展開していくことになります。

しかしチョコエッグの影響は大きく、殆どのトレーディングフィギュアがワンコイン(500円)以下で購入できることやコンビニで入手できる事と併せ、これまで立体、ひいてはフィギュアに興味がない層への需要開拓がこの時期に行われているとも言えるでしょう。

事実この時期のトレーディングフィギュアは今以上に多様多種なアイテムが、現在の眼で見ても遜色無いクオリティでほぼワンコイン(500円)以下で入手できる、言わばオーパーツのような存在になっています。


コトブキヤ ワンコインフィギュア『女神転生 悪魔召喚録』

SF MOVIE SELECTION GAMERA
コナミ「SF MOVIE SELECTION GAMERA」

 

そんな中2003年にタカラから「リカヴィネ」が発売されます。リカちゃん人形5000万体を記念して発売されたこのトレーディングフィギュアは、原型を海洋堂の大嶋優木が担当しベースも含めたヴィネットとしての可愛く可愛く仕上がった一品で、瞬く間に完売続出。
ネットオークションでの価格もうなぎ上りに上がり、これまでフィギュアに興味が無い層にも訴えた記念杯的な商品になりました。
翌2004年にワンダーフェスティバルにて、このリカヴィネをアレンジ・セルフパロした「リセヴィネ」が海洋堂の公式アイテムとして販売、「売れ残ったら秋葉原の海洋堂ホビーロビーで販売」と告知されていましたが、ワンフェス会場にて完全完売。
参加客層が大きく変化したと言われている人気を以ってワンフェスが一般層にも認知されてゆきます。

この2004年には『週刊わたしのおにいちゃん』と言うヴィネットフィギュア付の冊子が発売し、5週連続刊行のシリーズ化で発売されました。この付録ヴィネットの原型を担当したのも「リカヴィネ」「リセヴィネ」と同じ海洋堂の大嶋優木。
この『週刊わたおに』も品薄、完売が相次ぎ後に増刷が行われる程。
東京都写真美術館開催の『わざとこころ 日本式・アニメーションの探検』展にて展示されたことでも話題になりました。

食玩、トレーディングフィギュアで培われた技術がダイレクトに萌え美少女フィギュアにも活かされ、市場にも浸透しています。


ワンフェス2004冬オフィシャルアイテム リセヴィネ K‣Tフィギュアコレクション

 

トレーディングフィギュア以外のスケールサイズ、PVC塗装済完成品フィギュアでは、日本での知名度屈指のプロモデラー、MAX渡辺率いるメーカー「MAXファクトリー」が美少女キャラのPVC塗装済完成品を発売します。

これまでMAXファクトリーは『ガイバー』やメカ・特撮のガレージキットを中心に発売してきましたが、『Kanon』『Air』の主題歌を手掛けPC美少女ゲーム業界でその存在感を不動のものにしていた「I’ve Sound」初のTVアニメ主題歌(KOTOKO「ShootingStar」)担当作品『おねがい☆ティーチャー』からミステリアスなロリ美少女「森野苺」を塗装済完成品にて発売します。
しかもワンフェス限定、通販サイト限定、誌上通販限定と複数のカラーバリエーションまで準備しての参戦で、この「森野苺」以降美少女フィギュアメーカーとしてのMAXファクトリーの認識は一気に広がります。
事実この後MAXファクトリーは『DEAD OR ALIVE 霞』と言う美少女フィギュア史に残るベストセラーを発売するに至ります。

また『おねがい☆ティーチャー』及び翌年の続編『おねがい☆ツインズ』は長野県大町市木崎湖周辺を舞台とした「聖地巡礼」の元祖と言える作品でもあり、先述の主題歌以外にもキャラデザから物語まで美少女PCゲームの要素をいろいろと匂わせる作品ですが、この『おねてぃ』『おねツイ』はこの後も多数の塗装済完成品が複数のメーカーから発売され、フィギュア史を語る上では外せない作品になっています。

コトブキヤもPVC塗装済完成品で『おねてぃ』の「風見みずほ」に続き、トレーディングフィギュアのワンコインシリーズでも『おねてぃ』『おねツイ』のシリーズを発売しています。


MAXファクトリー『森野苺』電撃HOBBY誌上通販限定版。表情とワンピースの色が異なります。
後ろは「ホビージャパンMOOK オールザットフィギュア2002」及び「ホビージャパンMOOK オールザットフィギュア2003」共にホビージャパン社


舞台となった長野県大町市木崎湖

 

2003年4月に発売したニトロプラス『斬魔大聖デモンベイン』は、ストーリー根幹にクトゥルフ神話を混ぜながらも「荒唐無稽スーパーロボットADV」を謳った巨大ロボット物で、アニメ化の他スパロボ参戦も果たしています。

この作品は発売前から「デモンベイン立体化計画」として、主役機デモンベインのレジンキット化をレポートしたり、コンシューマー移植時に全長2mの等身大モデルを作成してワンフェス他のイベントで展示したりしていましたが、この際立体化の協力をしていたのがボークス。
登場キャラのレジンキットが早々からボークスa-brandにて発売され、PS2移植の際に「a-brandスペシャルボックス」としてコールドキャスト製塗装済完成品同梱のゲーム本体を発売するに至ります。

「a-brandスペシャルボックス」はその後『マブラヴ』『機神飛翔デモンベイン』『マブラヴ オルタネイティヴ』でも発売され、限定版商法華やかしきPC美少女ゲーム市場でもその入手難度・価格はトップレベル。

ボークスはPVC製品を出すのは他メーカーより遅れ後年になりましたが、塗装済完成品フィギュアの存在を大いに広めた立役者でもあります。
なお、ニトロプラスはワンフェス等の当日版権イベントで版権元がディーラーと直接の窓口を設けている独自版権製を採用しており、この点からも立体に対しての理解が深いメーカーです。

『機神飛翔デモンベイン a-brandスペシャルボックス』付属の「アナザーブラッド」

 

この時期のPVC塗装済完成品フィギュアは、前回も語りましたが完成度や精度と言う点では現在の技術には及ばないまでも、キット中心の頃と比べ箱から出すだけで塗装済完成品が陳列できる、ベース・台座にも準備されており加工の必要もなく、しかもキットよりも安価と言う特徴で、着実にユーザー層を増やしていきました。

『こみパ』『Piaキャロ』のPVC塗装済完成品を発売したコトブキヤはこの時期レジンキットを先ず販売し、後にそのキットを元にした塗装済完成品を発売すると言うサイクルを続けています。
この当時のレジンキットのラインナップが『こみパ』『Piaキャロ』と言ったPC美少女ゲーム中心だったので、自ずとPC美少女ゲームがPVC塗装済完成品で発売される事が他メーカー含め多くなっていったと思われます。

それを決定付けたと主張したいのは2004年2月発売の「高瀬瑞希 水着Ver2」です。
コミック版『こみパ』の一頁応援イラストの立体化ですが、ムック「コトブキヤ オールフィギュアカタログ2001-2003」でカラバリ版が表紙を飾り、そのカラバリ版が誌上限定通販されるに至って「PVC塗装済完成品でもモデラーが作るのと遜色ないハイクオリティの物が入手できる」「単純な立ちポーズじゃないものが入手できる」と言う市場認識のコペルニクス的転換を迎えたと言えるでしょう。
また、元絵から非常に胸が強調されているポーズだったのですが、それを余すことなく再現した造型にて世のおっぱいスキーに応えた商品となっています。

コトブキヤ「高瀬瑞希 水着ver.2」


「コトブキヤ オールフィギュアカタログ2001-2003」ドリマガ編集部/ソフトバンククリエイティブ

 

そしてPC美少女ゲーム界隈では、『月姫』にて確固たる人気を得ていたTYPEーMOON商業化の第一作『Fate/stay night』が2004年1月に発売されます。

現代日本を舞台にした圧倒的ボリュームで描かれる陰謀詭計渦巻く超魔術的バトルロイヤル伝記活劇は大熱狂を以って市場に迎えられました。
比較にならない内容の濃さと熱さも話題になり、PC美少女ゲーム業界は大なり小なりこの影響下から抜けられない程でした。
事実当時の業界情報誌「PC NEWS」のセールスランキングでは続編『Fate/hollow ataraxia』発売までの約2年弱の間、一度もランキング50位圏外になった事が無い程の売れ行きで、大作・注目作が少なかった翌年9月上旬(ぶっちゃけ夏コミ後)にはベストテン入りも果たしてます。

個人的に印象深いのは、エロゲー店員の個人テキストサイトにて「当店における『Fate』予約数は195人、うち取りに来なかった人が2人」と言う圧倒的な販売数と引取率が語られてた事です。
この数字は予約キャンセルが常態化するエロゲー販売に少しでも携わればどれだけ異常値かが判ります。
それだけ数が出たのにも関わらずパッケージ版は現在ではプレミア価格になっているのもまた凄い。


秋葉原でのPCゲーム版「Fate/stay night」シリーズの中古買取・販売(2019年2月撮影)

 

その「Fate」からの立体は、塗装済完成品フィギュアの場合は原形の作成等の生産・製造過程の関係で企画から発売までは10ヶ月~1年以上のタイムラグが生じてしまうので、どうしても時間がかかるのですが、キットだと確認出来る限り最も早いのはコトブキヤのレジンキット「セイバー 私服ver」が2004年8月に発売されています。
『月姫』『MELTY BLOOD』のレジンキットを発売した事もあるコトブキヤからなのでソフト発売前から企画はあったのでしょうが、そのソツの無いチョイスは流石と言うべきです。


月刊ホビージャパン2004年09月号より

塗装済完成品になると、ソフト発売と同年の2004年中にはスプリングがトレーディングフィギュアを発売、翌2005年以降にもソル・インターナショナル、トイズワークス、とらのあなと言った各メーカーがトレーディングフィギュアを次々に発売し、これらもソフト発売前から企画があったことを思わせます。

スケールフィギュアでも、翌2005年2月に、前年自社でのフィギュア販売を開始した新メーカー・グッドスマイルカンパニーが「セイバー」と「遠坂凛」を発売。
2004年末にレジンキット版をネット販売限定で発売後の満を持しての発売で、この時期まだレジンキットを求めるユーザーも相当数いた事と、それ以上に塗装済完成品を求める層が大きかった事を伺わせます。ベース部分も含め大胆なポージングは単なる美少女フィギュアではない迫力が感じられます。


月刊ホビージャパン2004年12月号より

また同じ時期にコトブキヤも先述のレジンキット「セイバー 私服ver」をPVC塗装済完成品で発売しており、この商品も人気による品薄・完売が相次ぎました。

4月にはグッスマから「ライダー」が発売。
前年にイベント版権でアマディーラーが販売したキットを塗装済完成品として販売したケースで、このような経緯を経ての発売も増えていきます。

本編発売から一年強でこれらの製品が多数のメーカーより発売されていたことからも、Fateシリーズは当初から各メーカー塗装済完成品をメインに展開され、受け入れられる土壌が出来ていた、製作側・ユーザーに恵まれていた事が判ります。

グッドスマイルカンパニー「ライダー」

 

先述の「イベント版権でアマディーラーが発売したキットを塗装済完成品として販売」する手法は以前から行われており、原型師宮川武率いるディーラー「T’s System」のキットを塗装済完成品として販売しているメーカー「クレイズ」は、『こみパ』『Piaキャロ』等の塗装済完成品をポリストーンやPVCで発売してきました。
このメーカーも2005年7月に「セイバー」「遠坂凛」をPVC製塗装済完成品として発売、1/6と言うやや大きめサイズでありながらも、これも人気による品薄になり、Fateシリーズの塗装済完成品フィギュアはゲームのファン層にしっかり認識され、現在のような「コレクターズアイテムの一つにフィギュアが当たり前のように存在している」までには至ってはいないものの、フィギュアが展開・発売される土台はガッチリと固められていたことが伺えます。


クレイズ「セイバー」
サイズはチョッと大きめ1/6

で、クレイズ製セイバーと言えば語らなければイケナイ件がヒトツ。

2006年にネットのごく一部で話題になりましたが、中国のアニメ情報誌「動画基地」誌のFate特集号に付録のセイバーフィギュアがその余りにもな出来に“邪神”の異名と共に画像が広く広く拡散されたのですが、その“邪神セイバー”はこのクレイズ製セイバーを無許可違法コピーと縮小を繰り返して出来たものと言われています。
サイズはトレーディングフィギュア並みなので、シリコン複製と収縮による複製の果てにこの邪神が誕生したのでは、と言うのが当時の見立てでした。

実際に目にすると、このサイズでアホ毛の再現をきちんと行われてますが再現すべきはそこじゃないだろと見た人全員が突っ込むレベルで、さらにセイバーなのに胸の先端が主張しているのが非常に忌々しいです。
またこの付属フィギュアが付いている冊子本編「動画基地」誌ですが、どうも日本向けの版権イラストやファンイラストを無断で拝借したものの集合体のようで、一目見た編集者の方が「解像度が明らかに足りてない…」と一蹴したのが思い出深い蠱毒のようなシロモノです。

この邪神セイバーはアニメ誌が発売されていた本土・中国でもその出来は衝撃だったらしく、「邪神開封の儀」として崇め奉るネタ動画が公開されたり、邪神セイバー同人誌を日本のコミケにて頒布したりとイロイロな活動が散見されました。

なお、日本では余りにもアマリニモもな出来のフィギュアを“邪神”と呼称して一種のネットミームと化しているのですが、詳細は「邪神 モッコス」辺りでググるなりして頂ければと思います。

と言う訳でとりあえず一段落、Fateシリーズと美少女フィギュアの邂逅です。

コミカライズやアニメ化、劇場アニメ化とマルチメディア展開を文字通り蹂躙し、スピンオフ含めた派生作品も圧倒的な認知度を誇り、第一作から15年を経た2019年現在でも一大コンテンツとしてオタク産業を席巻しているのはシリーズ1回目のコラムで書いた通りで、何か意図した事件や特別なイベントが起きたとかじゃなく、Fateシリーズの登場時期にPVC製塗装済完成品フィギュア市場の黎明期が重なったことが大きいというのは言った通りでしたが、あれこれ調べていたら量が膨大になり予想以上に脇に逸れてしまいました。
それでも推測からあまり間違ってなかったことが確認できましたし、一体の完成品フィギュアが成り立つまでに様々な歴史が詰まっている事を知って頂ければ本望です。

 

参考書籍
「エロゲー文化研究概論 増補改訂版」著・宮本直毅/総合科学出版
「TYPE-MOONの軌跡」著・坂上秋成/監修・TYPE-MOON/星海社新書
「月刊ホビージャパン 2004年09月号」ホビージャパン社
「月刊ホビージャパン 2004年12月号」ホビージャパン社
「ホビージャパンMOOK オールザットフィギュア2002」ホビージャパン社
「ホビージャパンMOOK オールザットフィギュア2003」ホビージャパン社
「コトブキヤ オールフィギュアカタログ2001-2003」ドリマガ編集部/ソフトバンククリエイティブ

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