センセイ(べ・一文字)のメモリが少なくても語りたい

美少女ゲーム界隈と美少女フィギュア市場のカンケイ【1】 ~好きとか嫌いとか最初に言い出したせつなさ炸裂~

公開日:センセイ (べ・一文字)


 
 
ここ数年、オタク的な友人達と会う度に「何でガチャ回さないんですかー」みたいな事を言われ続けています。自分でもなぜか判らないんですが、ソシャゲの類をほぼプレイしていないのでこのままでは流行に取り残されてしまうという危機感を抱きつつも、楽しそうに感想を言い、笑って泣いて、ガチャの爆死報告が流れるのを目にしているとこのままでも良いかな…と思ってしまいます。

その中心格でもあり、プレイしてなくても情報が嫌というほど入ってくる『Fate/Grand Order』通称『FGO』はマルチメディアの極みとも呼ぶべき展開で、未プレイでも各所各所のストーリーとキャラクターが把握できるのは正しくない姿と判っていても有難いものです。
その『FGO』を産んだ『Fateシリーズ』が美少女フィギュア界隈だけでなく一大コンテンツとしてオタク産業を席巻しているのは間違いないのですが、ではそのFateシリーズのフィギュアはどこから隆盛したのかを考えると、大体「図らずも美少女ゲームメディアの発展と塗装済完成品フィギュア市場の進化とが一致していた」と言う一点に過ぎないのですが、ではその一点とは何処なのか、そこに至るまでの軌跡を、極めて視野の狭い個人的な記憶と経験をベースに語ってみたいと思います。

 

FGOフィギュアの最新作
ストロンガー『シールダー/マシュ・キリエライト 限定ver.』
 
 
そもそも「自主制作ではない商品として流通している」美少女フィギュアはどのようなものがあったのかと言うと、廣田恵介氏の名著「我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか。」(双葉社)に詳しく書かれています。
「うる星やつら」のラムのプラモデル内のスカート内の下半身にパンツのモールドがドン!と中央にある表紙のインパクトとは裏腹に30年以上前の純粋ゆえキャラ愛ゆえの嫌悪感と思春期だからこその性的好奇心との葛藤が胸をえぐる、資料的価値も高い一冊です。この本に紹介されている所によると、表紙にもなった「うる星やつら」ラムちゃんを始めとした“プラモデル”で発売されていた女性キャラ達が多数あることが伺えます。
ガンダムのキャラが1/12でプラモデル化されていたキャラコレクションにイセリア(「ガルマ様のかたきー」)がラインアップされているのは確かに謎ですなぁ。

 

「我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか。」著・廣田恵介/双葉社
 
 
その混乱期の80年代を経てから90年代になるとガレージキットを扱うメーカーが増え、プラモデルではないレジンキットやソフビキットでの販売数も増えました。
ガイナックスの前身であるゼネラルプロダクツ主催のアマチュアガレージキットの祭典「ワンダーフェスティバル」でも当日版権システムを導入し、アマディーラー製の美少女キャラがキット化されて増えていくのもこの頃です。
この頃の人気キャラは『ボーグマン』のアニス・ファーム、『ああっ女神さまっ』のベルダンディー等が人気キャラで、各メーカーからキットが発売されていたのを記憶しています。
そして『美少女戦士セーラームーン』シリーズは、老舗ホビー誌『月刊ホビージャパン』(ホビージャパン社刊)初の表紙を女性キャラだけで飾った作品で、80年代末から90年代初頭にかけての「有害図書規制」によるオタク弾圧期に輝く希望の星のような存在でした。
 
 

「月刊ホビージャパン 1993年7月号」ホビージャパン社
 
 
そんな中の1995年、まず一つの転機と言って良いであろう事象が起きます。
ワンダーフェスティバル主催の海洋堂が、前年発売されたコナミの『ときめきメモリアル』の1/8レジンキットフィギュアを販売し始めたのです。
 
 

PCエンジン版「ときめきメモリアル」コナミ 1994年5月27日発売
 
 
『ときメモ』はその前年に発売されたPCエンジン用恋愛シミュレーションゲームで、発表当初から「コナミに何が起きた?」「俺たちのコナミは死んだ!」等物凄い言われようでしたが、後にその作りこまれたシミュレーション部とキャラクターにユーザーが次々陥落し、Nifty会議室を中心に爆発的な盛り上がりを見せ、次世代機発売を控えていたゲーム市場でも異彩を放ってました。
その次世代機プレイステーションへの移植が決まって大きくステップする、そんな頃に海洋堂のレジンキット情報が入ってきたのです。
その当時までの海洋堂のイメージは、ワンフェスの主催となってはいるけれど特段注目作があるかと言えば、「数年前まで「パトレイバーを中心に頑張ってたけど…」「ホビージャパン誌の『銀河お嬢様伝説ユナ』はいいよね」位に思っていたメーカーだったので、そのメーカーがゲームの美少女フィギュアを? と言う驚きがありました。
しかし『ときメモ』のレジンキットは大反響を以って市場に流通し、外装がオルゴール箱になっていた初回限定版が話題になったプレイステーション版が『ときメモ』人気をブーストさせると、そのキットは爆発的なまでにガレージキット・レジンキットを知らなかった層に美少女フィギュアの存在を広げました。
 
 

プレイステーション版「ときめきメモリアル~forever with you~ 初回限定版」コナミ 1995年10月13日発売
この外箱を開けるとオルゴールになっており劇中BGMが流れます
 

この海洋堂『ときメモ』シリーズは年を経ても継続し続け、制服姿で攻略可能な12人キット化、私服姿でもう一周、そして再度の制服姿(夏服・冬服をチェンジ)でもう一周、合間合間に限定版としてパーティドレス版、水着版を販売し、1/8サイズのすべての原型を担当したのが海洋堂の香川雅彦氏で、このときメモシリーズを機に海洋堂の看板原型師として名を馳せ、現在でも数多の海洋堂商品の原型を担当しています。
 
 

レジンキャストキット 海洋堂『藤崎詩織スペシャル’96』
シリーズで本当にビックリするくらいの数が出ました

 
 
その通常の1/8スケールに対し1/5スケールも販売、こちらの原型は昔から海洋堂の看板原型師として有名なBOME氏で、1/5スケールについてはソフトビニール製の塗装済完成品も発売と、海洋堂の美少女キャラキット史を支えたコンテンツとなったのです。
ただしこの1/5ソフトビニール製塗装済完成品、現在主流のようなPVC製ではないので、商品の外箱に「中空で軽いソフトビニール製フィギュアは(特にこのモデルのようにリアルに脚を細くすると)製品の性質上立たせにくく、また長時間立たせると変形する可能性があります。
どうしても立たせてディスプレイされたい場合は、支え台を工夫したり、脚部に石膏を流す等の補強工作をする必要がありますのでご注意ください」ってモノ凄いハードル高いな!
「どうしても立たせてディスプレイされたい場合」ってそれ以外どうしろと!
事実商品には台座も付いていないので、時代と言えばそれまでですが20年以上前はこうだったんだと過ぎた時代に思いを馳せてしまいます。
 

 


海洋堂『虹野沙希』1/5スケールでの塗装済完成品は当時希少でした
 
 
また当時、現在のようにネット通販や大型量販店がほぼなかった時代に大小の模型専門店を中心に初回特典、イベント先行販売、直営店限定クリアレジンキット版の販売等、限定商法のキホンも抑えていたことは特筆すべきです。
なお、レジンキット初回販売版にのみ付属されていた「ピンズ」は、『こち亀』の左近寺回でネタにされていましたが、これもイベントのみ配布や直営店のみ配布等、絶対にコンプ出来ないだろうという種類がある上、各店で販売されていたレジンキットもピンズなしの再販版が多数見受けられたので、あの頃のムーブメントと言うのは本当に凄かったと回顧することしきりです。
 
 

ピンズ。上段は通販・直営店限定・イベント限定特典等、下段は初回版商品付属のもの 
 
 
この1995年は様々な事があった年で、1月に阪神淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件と文字通り日本を揺るがす大事件が起きた年です。
6月には少年ジャンプで『ドラゴンボール』の連載が終わったりもしたのですが、『Windows95』が発売されてPC市場の勢力図が変化し始め、前年に発売された次世代ゲーム機『セガサターン』と『プレイステーション』(前述のときメモPS版発売もこの年)はがっぷり四つでゲーム市場を牽引し、一気に拡大させていきました。
さらに前年から放送されていた『機動武闘伝Gガンダム』と『新機動戦記ガンダムW』が共に新たなファン層を開拓し、ガンプラで今まで続く新スタンダード『マスターグレード(MG)』の発売もこの年です。

冬の時代であった特撮関係は『ガメラ 大怪獣空中決戦』の上映で文字通り息を吹き返し、そして10月に『新世紀エヴァンゲリオン』が放送されるとオタク界隈だけではなく世間は全て「エヴァ一色」になります。
立体関係もエヴァの波を受け、各ガレージキットメーカーがキットを立て続けに発売、バンダイもLM(リミテッドモデル)ブランドで新商品を展開、スポンサーのセガ自身もガレージキットを販売する等これまでにない層をとことんまで開拓したと言えます。
この時期のエヴァ一色は比喩ではなく本当に一色だったのですが、本稿では直接関係するところ以外は割愛します。

このエヴァ熱が熱い翌1996年に前述の次世代ゲーム機セガサターンで『サクラ大戦』が発売され、このキャラクターも海洋堂、セガを始め各ガレージキットメーカーからのレジンキット商品化が行われ、『エヴァ』の起こしたムーブメントに上手く相乗りした形には成るでしょうが、人気ギャルゲーに対する周辺アイテムとしてのフィギュア化と言う流れはこの時期に完全に根付いたと言って間違いではないでしょう。
ただし今も昔もレジンキット制作の壁は厚く、当初から塗装済完成品での商品化を望む声がライトユーザー層を中心に多数ありました。

時期を同じくしてゲームセンターがプリクラ等の遊具が増え、アミューズメントパークとしての性格を濃くしていきます。と同時にUFOキャッチャー等のプライズ景品がぬいぐるみ以外の商品に変化してきた時代で、この頃にプライズフィギュアと言われる様々な塗装済み完成品アイテムがゲーム景品として並び始めました。
大量生産を行うと共に塗装を安価な海外工場に任せる事で「奇麗な塗装済完成品」商品が増えて来たのもこの時代なので、「塗装済完成品」商品が増えて来た事が実感できています。
 
 
そんなギャルゲーがゲーム市場で存在感を増す中、一つの作品が注目を集めることになります。それがセガサターンの『センチメンタルグラフティ』です。
 
 

セガサターン版『センチメンタルグラフティ』NECインターチャネル 1998年1月22日発売
同日に大傑作 チュンソフト『サウンドノベル 街』が発売されてます
 
 
この『センチメンタルグラフティ』の凄いところは、原画担当・甲斐智久氏の美麗なキャラデザインで注目を集めるや、CD含めたキャラグッズ展開がゲーム本編発売前から“徹底して”開始されていたこと。
発売前に武道館にて公式イベントが開催されたり『ファーストウィンドウ』と言う本編発売前のCG集兼プレ版が即完売、定価の10倍近い価格になったりといろいろと話題になったソフトです。

昨年は20周年記念イベントが開催された事からもその熱は伝わろうというものですが、ゲーム本編に関しては大抵眼をそらして口調が少なくなるので、まぁ察して頂ければ。
 

『センチ』店舗特典ポスター。流麗な筆致で12人のヒロインを過不足なく配置した多キャラポスターの最善解ではないかと
 

『センチ』取説後半のグッズ紹介。フィギュアにタペストリーと時代感覚がおかしくなります
 
 
その『センチ』とフィギュアの係わりですが、公式なデータがないので推測ですが「90年代に塗装済完成品フィギュアをゲーム本編発売前に販売し始めた」最も初期のソフトであり「その塗装済完成品フィギュアが登場キャラ12人分全員発売された」と言う現在でもそうそう成し遂げたタイトルは無いだろう、と思えるような業を成し遂げているのです。
ちなみに発売元はツクダホビーで、この『センチ』の前には『エヴァ』の塗装済完成品を発売していた事でも有名です。

さらに「フィギュアの発売月は各キャラの誕生日に連動させて12カ月連続発売」って当時も現在でも正気の沙汰とは思えないこともしていました。
ゲーム本編の発売は1998年1月ですが、それまでに発売された6人分のフィギュアがゲーム本編のマニュアル後半「関連商品紹介」にも載っているのでソフトをお持ちの方は確認してみると面白いかもです。
 
 

「ゲーム本編発売前」に発売された商品の一例。本編延期もあるとは言えブリスター塗装済完成品が出るのは異例中の異例でした
 
 
しかし「12カ月連続発売」は、肝心のゲーム本編の発売延期と、そのゲーム本編の(眼をそらして口調が少なくなる)内容、発売が誕生日順だったために一番人気であったキャラがフィギュア発売は12人の最後になった上、発売後に急速に沈静化していったムーブメントと合いなって、美少女フィギュア市場からその存在感が急速に薄れていきます。
それでもその後に放送されたアニメ『センチメンタルジャーニー』(監督・片山一良)はゲーム設定を換骨奪胎した、複数ヒロインのオムニバスアニメシリーズとして佳作の出来なので、機会があれば是非とも視聴してほしいところです。
なおこの『ジャーニー』スタッフの次回作が『THEビッグオー』なのは有名な話です。
 
 
ちなみに昨年『センチ』は20周年プロジェクトとして、CF募集で特別イベントが開催されましたが、新展開等は発表されませんでした。対して『ときメモ』は15周年記念の2010年にプライズ含め各種の商品が販売されたことと、昨年稼働のアーケード『ボンバーガール』にてメインヒロイン(兼ラスボス)の藤崎詩織が登場し、今年にそのフィギュアが登場したことで、その存在感が偉大であることをユーザーに印象付けました。
 
 

15thアニバーサリーで2010年に発売されたプライズ『館林美晴』隠れキャラだったけど人気上位でした
 

2019年発売プライズ『ボンバーガール×ときめきメモリアル 藤崎詩織』
平成の終わりに詩織のフィギュアが出るとは

 
 
と言う訳で現代どころか二十世紀すら終わっていないのですが『ときメモ』と『センチ』で胸焼けするほど語ったので以降は次回に続きます。
 
 
参考文献
「我々は如何にして美少女のパンツをプラモの金型に彫りこんできたか。」著・廣田恵介/双葉社
「エロゲー文化研究概論 増補改訂版」著・宮本直毅/総合科学出版
「月刊ホビージャパン 1993年7月号」ホビージャパン社
「ホビージャパンエクストラ 1996年春の号」ホビージャパン社
「ホビージャパンエクストラ 1998年春の号」ホビージャパン社

 

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