ボードゲーム遊び方紹介 第4回 番外編 “UNO”
ボードゲーム遊び方紹介 第1回 “どうぶつしょうぎ”はこちらから。
番外編はUNOにまつわる思い出です。
今から20年近く前の、夏のある日。
私は、アテネ国際空港で、カイロ行きの飛行機を待っていました。
予定の便が遅れ、まさかの2時間待ち。食事は機内食が出るらしいし、買いたいお土産もありません。手持ちの本は日本へ向かう機内まで取っておきたかったので、ただ、ロビーの椅子に座っているだけでした。
同じツアーの人たちはみんなどこかに行ってしまい、心細いなか、ちょっと離れたところで歓声があがっているのを見かけました。円陣を組んで座り、カードゲームで盛り上がっている団体がいます。遊んでいるのは、10代半ばくらいの子供たちでした。
「UNO!」
彼らの一人が叫びました。
何度もプレイした、あのゲームでしょうか。確かに彼らは見慣れたカードを手にしています。
「UNO!」と言った、その隣から、ドローツー、ドローフォーのカードが出され、あと一手で上がれるはずだった人は、大量のカードを受け取っていました。
がっかりする少年。ほかの子供たちは嬉しそう。
私は近づいて、その続きを見守りました。
UNOのルールは以下のとおりです。
ゲーム前、複数枚のカードを手札として配ります。手札は他のプレイヤーには見せないようにします。残ったカードは中央に置きます。
一枚めくり、そのカードと同じ色か数字のカードを、最初のプレイヤーが手持ちのカードから選んで重ねます。もしも該当するカードがなければ、余っているカードから引いていきます。
通常カードだけではなく、特殊カードもあります。
スキップと書かれたカードは一人飛ばすことができます。
ドローツーと書かれたカードは、次の人が2枚引かないとなりません。ドローフォーは4枚引きます。
リバースと書かれたカードは、順番が逆回転になります。
四色が描かれたカードは、好きな色のカードが出せます。
このように手持ちのカードを次々に出していき、残り2枚になったら「UNO!」とリーチ宣言をします。最後の一枚は特殊カードではなく、通常カードを残します。
次に自分の番が来たときに、前の人が出したカードと同じ色か数字だった場合は上がることができ、そのゲームの勝者となります。
あまりにも楽しそうだったので、私は声をかけてしまいました。
「Do you play with me?」
英語で話しかけるのは、初めてです。通じなかったらそれまでと思いました。
でも、彼らは、すごく嬉しそうに私を受け入れてくれたのです。
全員がプレイをしているわけではなかったので、私は観戦者の間に座らせてもらいました。
「ルールは分かる?」
「大丈夫」
面倒見の良さそうな、黒髪で巻き毛の少年が、たくさん話しかけてくれました。
「名前は?」
「のりこ」
「祝詞」のような発音で、その少年はほかの人たちに私を紹介してくれました。ほかの観戦している子供たちも、次々に話しかけてくれました。英語のヒアリングはできても、私は身振り手振りと単語でしか答えられません。それでも、楽しく会話はできました。
「チャイニーズ?」
「日本人」
「僕、日本人、初めて見たよ!」
「みんなはどこに行くの?」
「ケニアだよ。僕たちはこれから家に帰るんだ。のりこは?」
「エジプトに行くのよ」
「パパやママはどこ?」
「ううん。いないの」
「おう……」
「日本にはいるの。お姉ちゃんと旅行中なの」
「すごいよ!」
「添乗員同行のツアーだから、私と姉だけで来ているわけではないのよ」と言いたくても、英語ではなんと言っていいのか分かりません。
そうこうしているうちに、次のゲームになりました。私にもカードが配られます。順番はジャンケンではなく、私からでいいとのことでした。
開いてみたら、すぐに勝てそうな手札が揃っています。
出そうとしたそのとき、彼らの乗る飛行機の搭乗案内がありました。「なんてこった」と彼らは残念そうに、手荷物をまとめ始めました。
「バイバイ、のりこ。また会おうね」
いちばん話しかけてくれた少年が、名残惜しそうに言ってくれました。
ハグをしたり握手をしたりしながら、私は彼らと別れました。
実は、私、25歳なの。君たちよりも、ずっと大人なの。
でも、ゲームには、国境も年齢も関係ありません。
夏になると、遠い異国で、できなかったUNOのことを思い出します。
ボードゲーム遊び方紹介 第5回 初めてのボードゲームカフェ(前半)ワードバスケット
1973年生まれ
作家。2007年に宗形キメラ名義で二階堂黎人との合作『ルームシェア 私立探偵・桐山真紀子』で作家デビュー。2009年には『マーダーゲーム』で単独デビュー。近刊は「少女ティック 下弦の月は謎を照らす」(行舟文化)
ボードゲーム好きで『人狼作家』の編集も手がけ、羽住典子名義でミステリ評論活動も行っている。
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