デバッグ・マジック! Byまつがん

デバッグ・マジック! vol.33 ~『カルロフ邸殺人事件』編~

公開日:まつがん

デバッグ・マジック Vol.33

いよいよ今週末には新セット『カルロフ邸殺人事件』が発売となる。

マーダーミステリー風のセットだけあって、「変装」「偽装」「証拠収集」「事件」「容疑をかける」と、きな臭いワードの新能力が目白押しの本弾。はたしてモダンにはどのような影響があるのか。

最新のメタゲームをチェックしながら、新カードを使ったデッキアイデアに挑戦していこう。

1. 強固な三つ巴環境とデッキパワー包囲網

2024年1月~2月にかけてのモダン環境は、以下のようなメタゲームで展開していた。

Tier 1
(11%強、計40%)

赤黒不死ラガバン
ティムール続唱
Yawg-Chord

Tier 2
(2~5%)

青赤ラガバン←Down…
アミュレット
死せる生
鱗親和

Tier 1の3つが盤石すぎて、前回はたくさん種類があった半端なTier 2がどんどんと駆逐されていった結果、環境の6割はこの7つのデッキで作られていると言えるほどに偏った環境となった(もちろんそれが7つもあるなら他のフォーマットと比べれば多い方、という意見もあるだろう)。

ただ問題は、Tier 1の三つ巴が固定化し、かつそれが可視化されたことで、環境の流動性が低くなってきた部分にある。

一流のデッキでも、予想外のデッキにやられてTier 1から陥落することがあるならば、ローグデッキの使い出もある。だがそうしたデッキは、こうした三つ巴のTier 1がいる環境では残りの2つのTier 1に弱いものだ。

そして三つ巴の固定化が招くのは、「Aに強いけどBとCに弱い」デッキが、「Aが多くてBとCが少ないタイミングだから使おう」とはならない事態である。なぜならこうした環境では、BもCも常に無視できないほど一定数存在するからだ。

かくしてローグデッキは上位デッキのいわばデッキパワー包囲網によって行き場を失っていく。

とはいえ不健全な環境と言うわけではないし、禁止カードが出るほどとは思えない。となるとこの包囲網を打ち破れるものがあるとすれば、やはり一番は新カード・新デッキによる環境変化だろう。

『モダンホライゾン』『モダンホライゾン2』のような下環境向けのセットではないため、カードパワーという点での期待度はそこまで高くないものの、プレイヤー側からの環境変化の要請という点においては、『カルロフ邸殺人事件』に多かれ少なかれ期待せざるをえないというのが私の現状分析だ。

またそれはさておき、例によって最近活躍したローグデッキを3つ紹介しておこう。

アサルトローム

「アサルトローム」といえば古のフォーマットであるエクステンデッドで活躍したコンセプトだが、《突撃の地鳴り》というカードは他にも「スワンアサルト」などちょいちょいやらかすことが多いほどにカードパワーが高いカードである。とはいえこんな話はマジックおじにしか通じないだろうし、「こんなカードモダンにあったのか」と驚く人の方が今は多いかもしれない。

コンセプト的なブレイクスルーであり他のデッキと差別化できる主張点でもある部分は、《一つの指輪》をコンボパーツとして攻撃的に使えるデッキであるという点にある。《突撃の地鳴り》があれば、《一つの指輪》でのドローはすべてリソースに変わる。中盤戦に入って《忘れられた洞窟》と《壌土からの生命》にアクセスできればクリーチャーはすべて殲滅できる。必要なのはマナを確保するターンだけだが、《一つの指輪》はそれも補ってくれる。Tier 1の三つ巴に対抗できる新たな《一つの指輪》アーキタイプとして、今後定着してもおかしくないポテンシャルがありそうだ。

親和
チャレンジ5位
プレイヤー名:TheNectar

親和

「親和」というアーキタイプに大きな進歩があったわけではないということは、2年前に紹介したときと比べるとすぐにわかる。この2年で得たものは《錨の鍛錬》《残響する深淵》くらいだからだ。だからここでの活躍は逆に、周囲の環境の変化により、「親和」にとって都合の良い環境が整ったと解釈するべきだろう。

「装備シュート」のメタゲームからの退場もあるのだろう。アーティファクトへの特別な警戒は昨今あまりされないし、サイドボードの《虚空の鏡》もあまり見なくなった。《呪われたトーテム像》の流行でスロットがないのだ。ということは、「鱗親和」と違ってクリーチャーの能力に頼らない、「親和」のような脳筋クソデカアーティファクトアグロにとって追い風というわけだ。ただメタ上位に定着するとまではさすがに思えないので、今後も月1~2回程度気まぐれに活躍するくらいのポジションに収まりそうだ。

グリクシステンポ
チャレンジ3位
プレイヤー名:66yui
クリーチャー(13枚)

4《ドラゴンの怒りの媒介者
3《帳簿裂き
3《オークの弓使い
3《瞬唱の魔道士

呪文(29枚)

3《稲妻
2《呪文貫き
1《呪文嵌め
4《邪悪な熱気
3《湖での水難
4《定業
4《思考囲い
4《表現の反復
4《ミシュラのガラクタ

グリクシステンポ

このカラーのミッドレンジにしては珍しく、《敏捷なこそ泥、ラガバン》も《死の影》も入っていないのが先進的なデッキだ。それらはある意味でもともと勝てるゲームを大袈裟に勝ってしまういわば「勝ちすぎ」カードであり、相性的な有利不利に結びついたり先手後手の影響を受けやすい。ならば自ら不利を招くカードをとことんまで排除し、いかなる相手にも微差で勝つことを最初から決意した方がマシである、ということなのだろう。

だがそれは口で言うのは容易いが、実践するのは難しい茨の道だ。しかも、想定外の相手に当たったりリストが知られていると脆いというリスクもある。メタゲームの固定化は追い風だが、入賞してリストが割れてしまった現状、同じコンセプトで使い続けるよりは、毎週ちょっとずつのマイナーチェンジを秘伝のタレのように適宜継ぎ足していく方式で生き延びる方が賢明かもしれない。

2. 『カルロフ邸殺人事件』でバグを探そう

スタンダード向きのセットでも、モダンに大きな影響を及ぼすことは稀にある。

プレビューの段階でリストを見て「なんだ、このセット弱そうだな~www」と高を括っていると、思わぬ伏兵を見逃すかもしれない。

だから大事なのは常に、「どんなに荒唐無稽なコンセプトでも少なくとも一度は試してみる」ことだ。

「強そう」が「強い」ではないように、「弱そう」も「弱い」ではない。「弱そう」は、クソデッキを組んでみて初めて「弱い」になる。

デッキビルダーに予断は許されない。今回も油断することなく、新セットに眠るバグをデバッグ (発見・解明) していこう。

《顔を繕う者、ラザーヴ》

「コピー」というのはバグの温床だ。何千何万と存在するカードすべてに関して、「これをコピーしたらどうなるか?」をテストプレイの段階で正確に検証するのは実質的に不可能であり、様々なバグのすり抜けが発生しうるからだ。

顔を繕う者、ラザーヴ

《顔を繕う者、ラザーヴ》。攻撃時に墓地にあるクリーチャーを追放して「調査」し、手掛かり・トークンを生け贄に捧げると一時的にそのクリーチャーのコピーになれるということで、コピーが一時的な代わりにコストが軽くなった《影武者》と言える。

ただ、「墓地にあるクリーチャーをコピーする」というのは、起こる結果だけを見れば「墓地からクリーチャーを蘇生する」のと別に変わらない

そしてモダンでクリーチャーを蘇生する方法といえば、対象が伝説なら《御霊の復讐》、非伝説なら《頑強》が既に存在しているため、いずれにせよ2マナ相当のアクションを《顔を繕う者、ラザーヴ》の召喚+手掛かり起動の計4マナで行うことに何の意味があるのか?と思われるかもしれない。

だが、実はモダンには「墓地にあるクリーチャーをコピーする」のと「墓地からクリーチャーを蘇生する」のが異なる結果を招くシチュエーションが存在していたのだ。

そう、すなわち。

触れられざる者フェイジ

《触れられざる者フェイジ》をコピーしたら瞬殺では???

《触れられざる者フェイジ》は相手に戦闘ダメージを与えただけで勝利できるという圧倒的に緩い勝利条件を持つ代わりに、召喚以外の方法でマナコストを踏み倒すことができない厳しい敗北条件を持っているカードである。

なので2ターン目に《御霊の復讐》で蘇生してイージーに勝とうと思っても、着地時の誘発を打ち消せないとその前に自分が負けてしまうというのが難点であった。

だが《顔を繕う者、ラザーヴ》ならば、そうしたデメリットをすり抜けて3ターン目に《触れられざる者フェイジ》で相手の顔面に豪快なダンクシュートを決められるのだ。

ただこのアイデアには問題があった。いくら3ターン目だろうとただの4/4バニラの攻撃が通るわけないだろ!!!というものだ。

顔を繕う者、ラザーヴ》でのコピーはそのターン中のみであるため、たった1回チャンプブロックされただけで勝利のチャンスは手中から逃げてしまう。つまり勝つためには、《触れられざる者フェイジ》の攻撃を確実に通す必要がある。

飛翔する海崖

この問題を解決するため、《飛翔する海崖》を採用することも考えた。土地をコンボパーツにすれば、呪文をコンボパーツにするよりスロットが圧縮できるからだ。

しかしそもそも《顔を繕う者、ラザーヴ》は2ターン目の召喚時だけでなく3ターン目にも手掛かり・トークンの起動でマナを要求するカードであり、コピー先の《触れられざる者フェイジ》をあらかじめ墓地に落とす必要があることまで考えると、たとえ土地であってもこれ以上のコンボパーツを要求することは現実的ではないという結論に至ってしまった。

とはいえ、土地をコンボパーツにしないならば無から《触れられざる者フェイジ》に回避能力を付与するほかない。

もちろんそんな夢のような方法が存在するはずも……。

あった。

不可思議

《不可思議》を使えばいいのでは???

《不可思議》なら、《触れられざる者フェイジ》を墓地に落とすための墓地肥やしの過程で同時に墓地に落とすことができる。そして《島》さえコントロールしていれば自分のクリーチャーは永続的に飛行を得るので、飛行を持った《顔を繕う者、ラザーヴ》の攻撃を通した後に手掛かり・トークンを生け贄にして《触れられざる者フェイジ》をコピーすれば安全に勝利できるという寸法だ。

現代のモダンの速度感では、相手に全く干渉しないコンセプトならば3ターン目までに勝つ必要がある。しかし逆に3ターン目までに勝てるならば、どんなコンボでも日の目を見る可能性があるのだ。

毛皮運送
御霊の復讐

《毛皮運送》は《顔を繕う者、ラザーヴ》同様墓地の《触れられざる者フェイジ》をわずか2マナでコピーできる優秀な機体だ。その分「搭乗」の条件は厳しいが、墓地肥やしに使用した軽量クリーチャーたちや《顔を繕う者、ラザーヴ》で乗り込めばいい。

《御霊の復讐》は直接《触れられざる者フェイジ》は釣れないものの、《顔を繕う者、ラザーヴ》を墓地から速攻で蘇生できるので奇襲が可能だ。手掛かり・トークンの起動も合わせた4マナがない場合は、相手のエンド前に唱えることで自ターン終了時まで追放を回避できる。

というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!

『ラザーヴ・フェイジ』
デッキビルド:まつがん
土地(20枚)

1《島》
1《沼》
3《湿った墓》
4《汚染された三角州》
4《霧深い雨林》
3《新緑の地下墓地》
3《闇滑りの岸》
1《死の溜まる地、死蔵》

クリーチャー(28枚)

4《面晶体のカニ》
4《査問長官》
4《マーフォークの秘守り》
4《縫い師への供給者》
4《顔を繕う者、ラザーヴ》
4《不可思議》
4《触れられざる者フェイジ》

呪文(12枚)

4《否定の契約》
4《御霊の復讐》
4《毛皮運送》

ラザーヴ・フェイジ

別にブロックされないからって除去されないわけじゃないだろ!!!

「墓地の《触れられざる者フェイジ》をコピーする」というコンセプトが抱える致命的な欠陥……それはたとえ《不可思議》で飛行を与えたところで《触れられざる者フェイジ》自体が「触れられざる」とか言って全然おさわりOKの貧弱ボディしか持たないという部分にあった。せっかく「変装」「偽装」があるセットなのだから、せめて《顔を繕う者、ラザーヴ》がコピー後も永続する「護法2」とか持っていたら全然違ったのだが、でもそうはならなかったんだよロック……あとそもそも《ダウスィーの虚空歩き》に触れない墓地デッキは基本的に問題外という悲しい現実がある

《ギルドパクトの力線》

モダンで活躍するカードの条件についてはこれまでの連載で様々見てきたが、「ワンチャン活躍するためにもせめてこれくらいは満たして欲しい……」という最低限の条件もあれば、「これを満たせば問答無用で活躍可能性アリ!」という超優秀な条件もある。

そして後者の最も代表的な例といえば……そう、「0マナであること」だ。

ギルドパクトの力線

《ギルドパクトの力線》。久しぶりに登場した新規の「力線」ということで、判明当初から注目を集めているカードだ。

とはいえゲーム開始時に貼れるだけあって、効果自体は《イリーシア木立のドライアド》+クリーチャーの染色という単体では一見何もしない能力となっている。もちろん土地6枚が並べば《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》は誘発するが、そのためだけに採用するのかと言われると微妙なところだ。

だが、《ギルドパクトの力線》の真価は効果以外の部分にこそあった。

そう、すなわち。

ニクスの祭殿、ニクソス

「緑信心」で使えばいいのでは???

「緑信心」はパイオニアにおいて《豊穣の力線》を禁止にした直接の原因となったデッキだ。

2つのシンボルを持ちながらもゲーム開始時に0マナで出せる「力線」と《ニクスの祭殿、ニクソス》との相性は言わずもがな抜群。それがさらに《ギルドパクトの力線》なら、1枚で4つもの「信心」を稼いでくれるのだ。

パイオニアとモダンではデッキに求められるポテンシャルが異なるとはいえ、一つのフォーマットをはみ出たほどのコンセプトが強化までされているとなれば、試してみる価値はあるだろう。

洞窟探検
大ドルイドの魔除け

《洞窟探検》は「アドバンテージを失わず」「《沈んだ城塞》との相性が良く」「最低限の『信心』を稼げる」唯一無二のカードだ。ありとあらゆる角度で干渉されるモダンにおいて、このデッキが一番やられたくないのは「信心」カウントを減らされること。その点エンチャントならばかなり触りづらいし、仮に触られてもカードカウントでは損をしないので裏目がない。

また、同じく『カルロフ邸殺人事件』で加入した《大ドルイドの魔除け》は、《ニクスの祭殿、ニクソス》をライブラリーから直接場に出せる上に、既に《ニクスの祭殿、ニクソス》を引いているならフィニッシャーの側を探してこれる。加えてアーティファクト・エンチャント破壊のモードもあり、既にモダンで活躍している《大魔導師の魔除け》に勝るとも劣らない器用な「魔除け」サイクルだ。

というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!

『ターボ緑信心』
デッキビルド:まつがん
土地(24枚)

14《森》
4《沈んだ城塞》
4《ニクスの祭殿、ニクソス》
1《大瀑布》
1《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》

クリーチャー(9枚)

4《喜ぶハーフリング》
4《忍耐》
1《不屈の巡礼者、ゴロス》

呪文(27枚)

4《大ドルイドの魔除け》
4《楽園の拡散》
4《ニッサの誓い》
4《洞窟探検》
4《ギルドパクトの力線》
3《一つの指輪》
4《大いなる創造者、カーン》

ターボ緑信心

……なんだかお利口すぎでは???

1マナ域から始まる動きは、《ラノワールのエルフ》と《エルフの神秘家》によってパイオニアでも既に実現できている。それが《喜ぶハーフリング》と《楽園の拡散》に変わっているのは《オークの弓使い》耐性という意味では「信心」減少への対策には確かになっているが、《ギルドパクトの力線》を引かない限り速度的にはパイオニアとほぼ等速というのは、カードパワーが極まった現代モダンにおいては見逃すにしては大きすぎる不満要素と言えた。

とはいえ、カードチョイスとしては各マナ域で除去されづらい優秀なパーマネントを取り揃えた結果であり、パイオニアの「緑信心」をベースにする限り、ここから大幅なブレイクスルーなどは見込めないのは事実だ。

何より最大の問題は、《ギルドパクトの力線》と《ニクスの祭殿、ニクソス》が4枚ずつしか積めないという部分にあった。その気になれば《血清の粉末》で無理矢理探すこともできるが、ヴィンテージの「発掘」デッキがデッキに4枚の《Bazaar of Baghdad》1枚を探すのですら、6マリして自滅することもあるほどである。4枚ずつしかない2種類のカードを両方揃えるというのは、ぶっちゃけ狂気の沙汰と言えた。

だが。

ここで私は逆に狂気に身を委ねることを思いついてしまった。

何かが実る保証はない。しかし、失うものはなかった。パイオニアの「緑信心」をちょろっとモダン版に変えただけのデッキを記事に載せるくらいなら、迷わずより面白い方に突き進むのがデッキビルダーとしての矜持だった。

そう……その狂気のアイデアとは。

活力の力線
生命の力線

他の緑の「力線」も全部ぶち込めばいいのでは???

モダンには《豊穣の力線》に加え、《活力の力線》《生命の力線》があった。つまり《ギルドパクトの力線》と合わせれば、最大16枚の「力線」をデッキに入れられるということだ。

16枚の「力線」が7枚の初手に来る期待値は1.87枚。《血清の粉末》を合わせれば2枚に届きそうだ。《ニクスの祭殿、ニクソス》は「信心」4以上でマナ加速となるため、《ギルドパクトの力線》でなくても何らかの緑の「力線」を毎ゲーム2枚引けるなら、《ニクスの祭殿、ニクソス》はマナ加速土地へと変貌する。

沈んだ城塞
トレイリア西部

さらに、《沈んだ城塞》がある。1ターン目に《ギルドパクトの力線》を、もしくはそれ以外でも2枚以上の「力線」をばら撒きながらこれを置き、2ターン目に《ニクスの祭殿、ニクソス》をセットすれば、2ターン目に4マナ以上を生み出すことが可能となる。

何も《ニクスの祭殿、ニクソス》から5マナや6マナを無理して生み出さなくても、フィニッシャーの側を《大いなる創造者、カーン》などの4マナ以下のカードにすればいい。こうして「《ギルドパクトの力線》が4枚しか積めない」問題は、他の緑の「力線」でも代替できるデッキ構造をとることによって解決した。

他方「《ニクスの祭殿、ニクソス》が4枚しか積めない」問題も、土地57枚のデッキを通過した私にとっては容易に解決できた。《トレイリア西部》を使えばいいのだ。《沈んだ城塞》からのマナはどうせ《ニクスの祭殿、ニクソス》にしか使わないので他に色の要求はなく、迷わず「青」を指定できる。2ターン目に「変成」できるので、3ターン目のビッグアクションには十分間に合うはずだ。

ただこの構造には問題があった。「力線」と《ニクスの祭殿、ニクソス》だけを頑張ってマリガンで集めても別にゲームに勝たないというものだ。

デッキコンセプトは「力線」2枚と《ニクスの祭殿、ニクソス》を手札に揃えたら終わりというわけではない。それはあくまで通過点であり、《ニクスの祭殿、ニクソス》からのマナを出力に変換する必要がある。

だが出力には結局1枚の手札が必要だ。マリガンを繰り返している中で、出力カードも同時に揃えられる保証はない。それは60枚から抽選を繰り返す限り、決して越えることのできない最後の難関だった。

……そう、60枚から抽選を繰り返す限り(・・・・・・・・・・・・・)

そこには抜け道が存在した。これまで数多のバグを生み出した、汚名も名高いギミックが。

7枚の手札を抽選するがゆえに出力カードが安定して揃えられないというのなら。

8枚目の手札があればいいのだ。

そう、すなわち。

巨智、ケルーガ
ドラコの末裔

「相棒」《巨智、ケルーガ》だ。これなら16枚の「力線」と《血清の粉末》を採用しても問題なく「相棒」条件を満たせる上に、ドロー効果でフィニッシャーを引き込みにいける。

だが何より重要なのは、このカードがサイドボードという「干渉されない領域にある」という点だ。

現状のコンセプトは「力線」も《ニクスの祭殿、ニクソス》も手札破壊・カウンター・除去・墓地対策のすべてを潜り抜けることができる。とはいえ結局出力の側が手札破壊やカウンターされてしまうようではいいようにやられてしまう。

そこで《巨智、ケルーガ》は、「相棒」なので任意のタイミングで手札に加えられるため手札破壊が効かず、もちろん除去でもドロー効果を防げないので、「干渉されない」というコンセプトに一貫した出力カードとなっているのだ。

しかもそれでもカウンターだけはされてしまうように見えて、《活力の力線》が置けているとなぜかカウンターされないというオシャレシナジーもある。全く隙がない。

ただ、残りのスロットは難航した。《三なる宝球》《砂時計の侍臣》《イリーシア木立のドライアド》のほか、《夢の宝珠》とかいう誰もまともに使ったことがなさそうなカードを検討したりもしたが、結局必要なのは「相棒」条件を満たしつつも2ターン目に動けるアクションという難儀なものだった。

《四肢切断》という選択肢もあったが、最終的には《ドラコの末裔》にたどり着いた。《ギルドパクトの力線》との2枚コンボは、フェアデッキをそれだけで完封しうる。元々マリガンで常にぶん回りを目指すストンピィ的コンセプトのため、ぶん回りパターンが増えるのは大歓迎だ。

というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!

力線信心
デッキビルド:まつがん
土地(28枚)
1《島》
4《天上都市、大田原》
4《耐え抜くもの、母聖樹》
1《水辺の学舎、水面院》
4《トレイリア西部》
4《沈んだ城塞》
4《宝石の洞窟》
1《爆発域》
1《アカデミーの廃墟》
4《ニクスの祭殿、ニクソス》
クリーチャー(4枚)

4《ドラコの末裔》

呪文(28枚)

4《活力の力線》
4《生命の力線》
4《豊穣の力線》
4《ギルドパクトの力線》
4《血清の粉末》
4《一つの指輪》
4《大いなる創造者、カーン》

サイドボード(15枚)

1《歩行バリスタ》
1《機能不全ダニ》
1《巨智、ケルーガ》
1《ワームとぐろエンジン》
1《隔離するタイタン》
1《街並みの地ならし屋》
1《トーモッドの墓所》
1《虚空の杯》
1《仕組まれた爆薬》
1《真髄の針》
1《呪われたトーテム像》
1《予言のプリズム》
1《液鋼の塗膜》
1《石の脳》
1《罠の橋》

力線信心

オレ……とんでもねぇデッキを作っちまったかも……。(by 切札勝舞)

このデッキを作るにあたっては、前々回前回で《沈んだ城塞》を擦りまくった経験が生きたことは間違いない。やはりデッキ作りは普段からのデッキ筋トレがモノをいうのだ。

とはいえ、正直このデッキが本当にガチで実用に耐えうるのかどうかはわからない。細部も詰めるべき部分は無数にあるだろう(一応、《災難の大神》《雲を守る山、雲帯岳》などは通過した)し、「全然安定しないし別に強くないじゃねーか」と言われるかもしれない。また《血染めの月》や《活性の力》など、乗り越えるべき課題も無数にある。

ただそれでも、一人回しをした感覚では、強さというよりは主に《ティボルトの計略》などの「ゲーム体験を阻害する」といった方向で、禁止カードを生みうるポテンシャルがあると感じた。純粋にほぼマリガンだけで完結するデッキで、早すぎる上に干渉できる部分が少なすぎる。少なくとも明日大会があったら、私はこのデッキを使うだろう。楽しそうだし何より、わからん殺しこそモダンで最も簡単な勝ち方だからだ。

《脱走》

モダンにおいて活躍する条件の一つである「0マナであること」とは、「左上に0と書いてあるカード」や「代替コストを持つカード」のことだけではない。

「支払ったマナ以上のスケールを生み出すことで、実質的にマナを踏み倒しているに等しいカード」もまた、別の意味で「0マナ」と言えるのだ。

脱走

《脱走》。わずか2マナで「6枚の中からクリーチャーを探し」(1マナ相当)「それを出し」(2マナ相当)「速攻を付ける」(1マナ相当)ということで、4マナ相当の効果をわずか2マナで実現する狂ったカード(率直)である。

《炎樹族の使者》などを探してさらなるアクションにつなげてもいいが、このカードを初めて見たときから、私はとあるカードとの組み合わせだけを考えていた。

そのカードとは。

献身のドルイド
療治の侍臣

そう、《献身のドルイド》《療治の侍臣》だ。

私は7年前、「エターナル・デボーテ」というデッキを作った。《山賊の頭の間》というクソゴミ土地を使って《献身のドルイド》に速攻を付与するという弱そうなコンセプトながら、「グランプリ・横浜19」では初日8-1という成績を残すなど長い間お気に入りのデッキだったが、手札破壊・クリーチャー除去・カウンターなどありとあらゆる妨害を受けるのに4枚の《山賊の頭の間》を引くために全力を尽くさなければならないという大いなる矛盾があり、自滅することも多く安定して勝つことはできなかった。

だが《脱走》があれば、もはや《山賊の頭の間》に頼る必要はない。しかも《脱走》それ自体で《献身のドルイド》を探せるから、《山賊の頭の間》と《献身のドルイド》が一体となった「エターナル・デボーテ」にとって夢のようなパーツなのだ。

しかし《脱走》にも問題はあった。《脱走》は4枚しか入れられず、緑白赤というデッキのカラーリングでは2マナのソーサリーは探せないので水増しも難しいというのと、そもそも都合よく6枚の中に《献身のドルイド》がいるとは限らないという点だ。

つまりどちらの観点からも《脱走》だけに依存することはできない。

ならば、どうすればいいか?

山賊の頭の間
ウルヴェンワルド横断

《山賊の頭の間》とどっちも入れればいいのでは???

確かに赤緑の呪文と無色の土地とは相性が悪い。しかし全く共存できないかというとそんなこともない。両方引いてしまったときに互いに干渉して片方しか運用できないリスクがあるとしても、片方だけを引く確率が上がってぶん回りの確率が上がる方がはるかにマシだからだ。

また、《ウルヴェンワルド横断》からの脱却も地味ながら大きなトピックだ。《ダウスィーの虚空歩き》をトップメタのデッキから出されるモダンでは、墓地の信頼性はかなり低い。しかし軽量のサーチで《ウルヴェンワルド横断》に匹敵する効率を持つカードはこれまで存在しなかったため泣く泣く採用せざるをえなかったが、《脱走》が来てくれたことによってその心配もなくなったのだ。

魔力変
ヴァラクートの発動者

《魔力変》が存在するというのも共存の決め手だ。旧来の形では1~2枚しか採用していなかったが、《山賊の頭の間》と《脱走》を併用するなら4枚フルに必要だろう。

フィニッシャーはこの機会に《歩行バリスタ》ではなく《ヴァラクートの発動者》にすることにした。《通りの悪霊》と《魔力変》がデッキ内に十分に残る前提ならコンボ成立後は《薄暮見の徴募兵》から《魔力変》を持ってこれる(ライブラリーの一番上に《魔力変》を乗せて《通りの悪霊》で引けばいい)し、緑無限マナから《一つの指輪》《大いなる創造者、カーン》の両方をケアできるフィニッシャーは調べた限りこれしかいなかった。

というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!

脱走デボーテ
デッキビルド:まつがん
土地(16枚)

1《森》
1《踏み鳴らされる地》
1《寺院の庭》
1《商業地区》
4《吹きさらしの荒野》
3《樹木茂る山麓》
1《地平線の梢》
4《山賊の頭の間》

クリーチャー(17枚)

1《野生の朗詠者》
4《献身のドルイド》
4《療治の侍臣》
1《薄暮見の徴募兵》
1《ヴァラクートの発動者》
4《通りの悪霊》
1《死の一撃のミノタウルス》
1《気前のよいエント》

呪文(27枚)

4《召喚士の契約》
4《否定の契約》
4《豊穣な収穫》
1《ウルヴェンワルド横断》
4《魔力変》
4《脱走》
1《大ドルイドの魔除け》
4《ミシュラのガラクタ》
1《妖術師のガラクタ》

脱走デボーテ

7年越しにようやくデッキの顔ができるようになったってだけで、何されてもきついのは一緒だろ!!!

確かに《脱走》によって「エターナル・デボーテ」は確実に強化されたし、このデッキでもある程度は現在のモダン環境に通用するだろうが、結局デッキの弱点そのものを補うには至らないという結論になってしまった。それに何より7年の間に3キルは特別アンフェアかと言われるとそんなこともないと思えるほどに環境は高速化してしまったわけで、何と言うか「今さら……」感がどうにも拭えないのだった。

3. 終わりに

今週末に開催される「プレイヤーズコンベンション横浜2024」では、モダンの「チャンピオンズカップファイナルシーズン2ラウンド2」も行われる(ちなみに私も解説を担当する予定だ)。

厳しい予選を抜けて勝ち上がった強豪ばかりのこの大会では、はたしてどのようなデッキが活躍するのか。非常に楽しみだ。

ではまた次回!

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