池田貴浩のレガシープリズン

「結婚しても趣味を続けるには?」MTG歴25年のプレイヤーに訊いた【インタビュー】

公開日: / 更新日:池田貴浩

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現役カードゲーマーたちのリアルに迫る連載企画。

「日本レガシー選手権 2018年」の優勝者、『赤単プリズン』の先駆者。

現在34歳、結婚生活4年目の今も趣味(MTG・レガシー)に熱中する池田さんに質問を投げかけました。

  • 「日本レガシー選手権」に優勝するまでの道のり
  • 結婚生活と趣味のバランスについて

レガシーを上手くなりたい人、結婚と趣味のバランスに悩む人は必見です。

ツンドラ狼を「速攻持ち」だと思っていた

ツンドラ狼を語る

マジックと出会ったのは25年前、小学生の頃です。

小学生なので英語が読めず、《ツンドラ狼》のテキストのFirstStrikeという単語を辞書で調べて「先に攻撃ってことか…じゃあ速攻ね」って速攻で殴っていました(笑)

中学生の頃もマジックを続けていて、高校生の頃はかなりハマったのですが、当時はまだフォーマットの概念を知りませんでした。

友達同士で「持ってるカードでデッキ組んで遊ぼう」みたいなのをやっていたのですが、当時、カードショップでフリープレイをしていた年上の人に「君たちは何のフォーマットをやってるの?あぁ、これはレガシーだね」と声を掛けられたのがフォーマットとの出会いです。

常に周囲に「マジックに引き戻す」友人がいた

マジックに引き戻す友人

その後、友達と「じゃあ、やるんだったらエクステンデッド、または最近できたレガシーかな」みたいな話になりました。ただ、この時点では競技としてはプレイしませんでした。

高校3年の頃にはスタンダードを始めて、そのままのめり込んで浪人してしまいました(笑)

大学からは東京に出てきたので、またマジックから離れたのですが、大学3年ぐらいの時に名古屋時代に遊んでた友達が東京に転勤してきて、一緒にマジックに復帰しました。

その後、友達はまた転勤してしまって、またマジックを辞めたのですが、大学の研究室に入ったら、同じ研究室の後輩がマジックをやっていて復帰。

こんな感じで、人生の転機で絶対に一度はマジックから離れてしまうのですが、少し経つと必ず僕をマジックに引き戻す人が現れたんです(笑)

レガシーに参入「お年玉でデュアルランドを4枚買った」

レガシーカード

レガシーについては、マジック歴が長いこともあって、ある程度は高額なカードを持っていたのでスムーズに参入できました。

高校生のころからちょっとずつデュアランを集めていて『セプターチャント』で遊んでいました。昔からロック系のデッキが好きなんだと思います(笑)

高校生の頃に友達とお年玉の1万円~2万円を握りしめて、グランプリ京都の物販ブースで≪Tropical Island≫を4枚買ったのを覚えています。

「お年玉でデュアランが買える!」って言いながら。

なので、ある程度カード資産が揃っていたので、レガシーの参入障壁が低かったです。

ちなみに当時、物販ブースには外国人の方が多かったので、高校までの拙い英語でコミュニケーションするのも楽しかった。アーティストサイン会では英語で話しながら《ザルファーの魔道士、テフェリー》にサインをしてもらったり、楽しい思い出でした。

競技レガシーを始めたきっかけは「持っていたデッキが偶然、トップメタに有利だった」こと

池田氏 横顔

本格的に競技を始めたのは社会人になってからですね。

社会人なってから暫くは『8post(エイトポスト)』でカジュアルに遊んでいたのですが、当時、流行っていた『奇跡』に有利というのを聞いて「ちゃんと調整したら大会でも勝てるかも」と競技性の高いトーナメントにも出るようになりました。

丁度、社会人2年目とかで仕事にも余裕で出始めたころで、当時の彼女とも分かれたのでやることがなくて(笑)

レガシーといえば青いデッキというイメージがありますが、僕は青いデッキを極めようとは思いませんでした。

というのも、(当時のレガシーの競技環境には)青いデッキを使う熟練のプレイヤーが沢山いたので「今から僕が≪渦巻く知識≫を打つ練習をしたところで、この人たちにはたぶん勝てないよなぁ」と思いました。

「この人たちに勝つには、違う土俵で戦う必要ががある」と考えて、『赤単プリズン』(当時は『ドラゴンストンピィ』という名称)を使うという選択になりました。

当時、カジュアルデッキだった『赤単プリズン』との出会い

池田氏 正面

当時の『ドラゴンストンピィ』はファンデッキ扱いだったので、構築も定まっておらず、世間的には「1ターン目から手札を4~5枚使って、あとはトップデックに期待するデッキなんでしょ」という(カジュアルデッキ的な)扱いをされていました。

実際、トーナメントで使ってみても、マッチングした対戦相手から「うわぁ、『ドラゴンストンピィ』に当たっちゃったかぁ。こんなカジュアルデッキを相手にして負けるの嫌だな」みたいな反応が多かったんです。

ただ、そんなリアクションをされつつも、≪虚空の杯≫を貼るだけで、こちらが勝ってしまう試合が沢山あったので、「もしかしたら(現状ぶっぱデッキ扱いされている)このデッキも、競技向けに本気で調整してみたら強いデッキになるのでは?」と考えるようになりました。

そして「『赤単プリズン』の人」となる

血染めの月

そこで2015年ぐらいから、1人で調整を始めました。

「デッキの仕組み自体は強いから、あとは安定感をプラスしてあげれば競技シーンでも通用するんじゃないか」と想定して、あらゆるカードを検討しました。

当時の『ドラゴンストンピィ』には≪煮えたぎる歌≫が入っていて、マナ加速から大型クリーチャーを展開するデッキでしたが、潤滑油が多すぎて安定性が低かったんです。

そこで《ゴブリンの熟練扇動者》などの、3マナ~4マナ域のクリーチャーをフィニッシャーに据える形を組んだら、安定性が上がって勝てるようになりました。

同時にそのころから新エキスパンションのクリーチャーのカードパワーが上がってきて、《罪を誘うもの》《ピア・ナラーとキラン・ナラー》などの新戦力が次々と加わって、気づいたらメタ的にも強いデッキという扱いがされるようになっていました。

すると、ずっと『赤単プリズン』を使っているからなのか、周囲にも「赤単プリズンの人」というのが認知され始めて、2016年ごろから『赤単プリズン』使いの人たち同士でグループを作って調整するようになりました。

2018年の「日本レガシー選手権」優勝

レガシー選手権 優勝

グループ内の調整で最も盛り上がったのは、《罠の橋》がデッキに入ったときですね。

《軍勢の戦親分》で8ラブルになったときも盛り上がったのですが、その時はまだデッキ的には『ドラゴンストンピィ』寄りでしたので、《罠の橋》が検討されて『赤単プリズン』への派生型が生まれたときはグループ内でも派閥が分かれて、議論が活発になりました。

あとはどこか海外のグランプリでおじいちゃんプレイヤーが『赤単プリズン』で優勝していたときも、グループ内が盛り上がりました。「俺たちのやってきたことは間違っていなかったんだ!」と(笑)。

やがては長年の調整が実ったのか(『赤単プリズン』を使用して)2018年の日本レガシー選手権で優勝という最高の結果を得られました。

▼記事はこちら▼

https://mtg.bigweb.co.jp/article/gpkyoto2018/coverage/024

(【GP京都2018】日本レガシー選手権with KMC 決勝 池田 貴浩(東京都)vs田中 颯(千葉県))

長年の愛機との別れ、ボロスイニシアチブへの転換

ボロスイニシアチブ

最初にイニシアチブ系のデッキに触ったのは2022年11月頃の『白単イニシアチブ』でした。

『白単イニシアチブ』もマナ加速から3マナ~4マナ域を叩きつけるデッキなので「『赤単プリズン』と近いデッキなのかな」と思っていたのですが、想像と違っていて驚きました。

具体的には『赤単プリズン』は、主に3種類(マナ加速、ロック系、フィニッシャー)のカードで構成されているのですが、『白単イニシアチブ』は2種類(マナ加速、ロック兼フィニッシャー)なんです。

『赤単プリズン』は3種類をバランス良く引かなければならないのに対して、『白単イニシアチブ』には、妨害と攻撃を兼任するカードが多く採用されているので、2種類の組み合わせを引ければ勝てるデッキになっている。

これが衝撃でした。

「足回り(マナ基盤)は一緒なのに、こんなにも違う景色が見れるのか」と(笑)。

『赤単プリズン』の進化系だと感じました。

『赤単プリズン』の研究は“やり切った”

赤単プリズンとの別れ

イニシアチブ系のデッキを試した理由はもう1つあります。当時、レガシーでは《表現の反復》が禁止されていなかったので『青赤デルバー』が流行っていたんです。

当時はまだ『赤単プリズン』を使っていたのですが、『青赤デルバー』は、土地基盤的に≪血染めの月≫が効かないうえに《濁浪の執政》に対して《三なる宝球》が有効ではないので、正直「いまの環境、『赤単プリズン』で戦うのがキツイな」と感じていました。

直近の大会では『赤単プリズン』が結果を残していたものの、他のデッキを検討するようになりました。

あと自分自身、『赤単プリズン』については研究し尽くした自負があって、その時に結果を残した『赤単プリズン』のリストを見ても「ああ、そういう感じね」という温度感でした。

「『赤単プリズン』の研究はやり切った」

そんな想いが強かったです。

マジック人生の“第二章”が『ボロスイニシアチブ』で始まった

ボロスイニシアチブ スタート

それに対して、『白単イニシアチブ』は研究が始まったばかりでしたので、自分も『白単イニシアチブ』を調整するようになりました。

8年前の『赤単プリズン』を調整し始めたころの楽しさと通ずるものがありましたね。

現在は主に1人で調整をしています。そのせいか僕の『ボロスイニシアチブ』には構築とプレイスタイルに『赤単プリズン』の要素が入っているんです。

直近の大会でも、≪紅蓮破≫を構えながら≪血染めの月≫を貼って、ロックしてからフィッシャーを引くという勝ち方をしていて、戦い方は『赤単プリズン』の時と変わっていないのを感じました。

最近も『ボロスイニシアチブ』を使って「Asia Eternal Weekend 2023 Legacy Championship」でも準優勝という結果を得られたので、これからもっと研究を進めていきたいです。

▼参考動画▼

あと現在、大会では『ボロスイニシアチブ』をメインで使用していますが、今でも『赤単プリズン』のことは常に頭の中にあって、グループ内でも調整を続けています。

既婚者の悩み「クリスマスイブとマジックの大会が重なる」

クリスマス

(毎年のことですが)マジックの年末のイベントって、既婚者やパートナー持ちにとって優しくない日程なんです(笑)

2023年は年末にレガシー神決定戦、パウパー神決定戦、マジック友達との旅行、エターナルウィークエンド、関西のエタパ、ラストサン、関東のエタパなど、マジック関連のイベントが集中してしまいました。

エタパの開催日なんて「12月24日(クリスマスイブ)」ですよ?(笑)

(全てのイベントに出るのは)既婚者としては現実的ではありません。

結果的に関西エタパ、ラストサンには出ないという判断をしたのですが、ほとんどの週末をマジックに使うことになりました。それでも妻は「行ってきていいよー」って送り出してくれました。

そんな妻の寛容さにとても感謝しています。

マジックをやっているあなたも好き

マジックの生活

(妻は)出会ったころから数えると8年間、ずっと僕のマジック生活を許してくれています。とはいえ「何かしらの不満を抱えているかもしれない」と思い、最近、妻に本音を聞いてみたんです。

「実際のところどう?何か我慢してない?」って聞いたら「我慢してないよ。そもそもマジックをやっているあなたのことも好きで結婚したんだから」って言われたんです。

「おお…完璧な回答やな」って…(笑)

続けて「私が居て欲しいときにいてくれるからいいよ。私も1人のときは好きなことをやっているから」とも言われました。

とはいえ、夫婦なので「自分よがりではだめ」なのは大前提です。週末のほとんどを自分の趣味に使っているので、普段の生活で少しでも恩返しできるよう心掛けているつもりです。

妻にマジック友達を会わせる

マジック友達に会わせる

あと(夫婦関係が円満なのは)僕らの力だけではなく、マジック仲間たちの力も大きいです。この年齢になってくると、マジック仲間とのグループ旅行に妻を連れていくことも増えたんです。幸いにも僕の周囲のマジック仲間は人格的にも素敵な方が多く、安心して妻に会わせられました。

妻からしたら(自分の)知らない人たちと遊んでくるよりも「以前バーベキューにいた〇〇さんと遊んでくる」のほうが安心しますよね。

最近もマジック仲間で草津にいく旅行があったのですが、僕含めて奥さんを連れてきている方も多いんです。そうするとその旅行を通して、それぞれの奥さん同士が仲良くなったりして関係性ができていく。

だから、既婚者マジックプレイヤーで趣味と私生活のバランスに悩んでいる人たちは、自分の家庭内で悩みを抱えるのでなく、コミュニティを作って、みんなで集まればある程度は解決するような気がします。

人に好かれるプレイヤーになる

マジックをプレイ 池田

ここで重要なのは、そのコミュニティで妻にマジックのプレイを強制するのではなく、旅行、飲み会、ボードゲームなどで遊ぶことです。

今や僕らの夫婦生活では、マジックでのコミュニティの存在は大きいものになっています。(子どもも生まれる予定なので)昨年の忘年会では、既婚者マジックプレイヤーの先輩から、赤ちゃん用の洋服やベビーベッドを譲ってもらえる話になったりしました。

ここでネックになるのが、そういう場に誘ってもらえる(または誘ったら来てもらえる)ような人格であるかどうかですね(笑)

性格や社交性もそうですが、マジックにおいても普段からダーティなプレイをしていないことが重要かもしれません。対戦相手と常に気持ちよくプレイ出来ていれば、どんどん周りに人は集まってくるので、いつかはパートナーを巻き込んだコミュニティに発展する気がします。

マジックという趣味が「自分だけのもの」ではなくなるんです。

趣味を隠して生きるのはつらい

趣味を隠して生きるのはつらい

僕にとって結婚は(趣味を続けるうえでの)ハードルにはなりえませんでした。子どもが生まれたら変わるかもしれませんが。

何よりも妻に感謝しています。

ちなみに妻と出会ったときから、僕は「趣味がカードゲームであること」を隠していなかったんです。付き合う前から「これからも土日は頻繁に大会に出ます」「さらに大会がある前後の1週間はデッキの調整で忙しいです」と宣言をしていました。

(生涯ずっと趣味を続けたいのであれば)誰かとお付き合いする前に、自分の手札(趣味や趣向)を全て見せておくことは大事なのかもしれません。

隠していると、いつかどちらかを選ばないといけない日が来る。趣味を一生隠し通すか、趣味を諦めるかしかなくなる。隠したままの趣味を続けていると、パートナーの視点では「“謎の理由”で週末に別行動する人」になってしまう。

それはお互いにとって“辛いこと”だと思います。

インタビューアー:小川翔太
WEB編集者/ eスポーツジャーナリスト
合同会社KijiLife代表
X(旧Twitter)@oga_5648

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