デバッグ・マジック! vol.11 ~もっと!『神河:輝ける世界』編~
『神河:輝ける世界』が発売して早くも1ヶ月。モダン環境にはどのような影響があったのだろうか。
今回も最新の環境動向をチェックしつつ、新カードを使った新しいデッキを作っていこう。
■ 1. ルールスの禁止と環境への影響
先週の頭に、モダン環境に爆弾が投下された。
すなわち、禁止改定によって《夢の巣のルールス》が突如として禁止となったのだ。
《敏捷なこそ泥、ラガバン》《ウルザの物語》などユーザーのヘイトを集めるカードが数多く集める中で、『モダンホライゾン2』のカードにはなるべく手を付けたくないであろうことから「《夢の巣のルールス》が禁止になる or ノーチェンジ」になるであろうというのは私も前々回予想していたところであり、判断そのものに対しての驚きは少ないが、その時期が1月25日にノーチェンジの判断を下しておいてからわずか1ヶ月後とは誰が予想しただろうか。
だが冷静に考えると、1月時点ではスタンダード/レガシー/ヒストリックについてしか言及されておらず、今回の禁止改定はそこでは触れられていなかったモダン/パイオニア/パウパーについてのものなので、ウィザーズからすれば「別にノーチェンジだとは一言も言っていないが???」ということなのかもしれない。既に10に近づこうという数のフォーマットについてそれぞれ判断材料を集めた上で適切な禁止の判断を下そうと思うならば、各々についてある程度の観察期間が必要となるのは自明であり、その期間を確保するために今後も禁止改定については2部構成がとられていく可能性は大いにある。したがって、言及されなかったからといってノーチェンジと安心するのは早計になったと言えるだろう。
ともあれそんな具体性のない話はさておき、《夢の巣のルールス》の禁止によって実際環境にどのような変化が起こるのかというと……これについては直ちには影響は少ないだろうというのが私の見立てだ。
「相棒」というのはその性質上、それ自体がコンセプトにはならない (コンセプトになってしまうとすればそれはもはやEDHだし、ルール変更前の「相棒」にはその問題は確かにあったにせよ)。つまり《夢の巣のルールス》を「相棒」にしていたデッキは、《夢の巣のルールス》がなくても成立するものばかりである。
代表的なデッキであった「グリクシスシャドウ」も「装備シュート」も、後詰めに別のカードを積むことでしばらくは変わらず環境のトップであり続けることだろう。
じゃあ禁止は意味がなかったのか?というと、そういうわけでもないと私は考える。
なぜなら《夢の巣のルールス》の問題点は、長期戦の果ての終着点としてのこのカードの「相棒」採用があまりにも最適かつ唯一無二過ぎたため、「《夢の巣のルールス》への最良の解答は《夢の巣のルールス》」とさながら無限回廊のようになってしまう点に問題があった。
それがなくなったということは、各デッキが各々自分のデッキにふさわしい「消耗戦への備え」を必要とするようになっていく、ということを意味している。それは《濁浪の執政》や《カルドラの完成体》などをはじめとして、多くの場合3マナ以上のパワフルなカードが担うことになるだろう。
だが、それらはもはや《夢の巣のルールス》という均一な存在ではない。であるがゆえに対処手段も一様ではなく、得意なデッキと苦手なデッキとが必然的に出てくることになる。となれば、そのムラを突いたコンセプトが打倒しやすくなる。
そのようにして、メタゲームが回りやすくなる作用が期待できるからだ。
《夢の巣のルールス》は確かにカードのフェアな交換を促進するカードではあった。その意味で《夢の巣のルールス》の禁止は「フェアに厳しく、コンボに甘い」判断かもしれない。しかし《夢の巣のルールス》がいなくなったことで、時に交換し、時には交換しない、フェアも勝つがコンボも勝つ、同じデッキは2週として勝ち続けられない……甘い見立てかもしれないが、これからはそんな多様性のあるモダンが戻ってくるのではないかとも思われるのだ。
セットチャンピオンシップ予選 7位
プレイヤー名:Parrit
4《耐え抜くもの、母聖樹》
4《枝重なる小道》
4《低木林地》
1《フロスト・ドラゴンの洞窟》
1《永岩城》
1《皇国の地、永岩城》
4《幽霊街》
1《地平線の梢》
5《平地》
4《剃刀境の茂み》
2《寺院の庭》
4《エスパーの歩哨》
4《貴族の教主》
4《レオニンの裁き人》
1《獅子の飾緒》
4《石鍛冶の神秘家》
4《スレイベンの守護者、サリア》
3《エメリアのアルコン》
4《ちらつき鬼火》
1《ラムナプの採掘者》
4《スカイクレイブの亡霊》
4《孤独》
1《エイヴンの思考検閲者》
3《ブレンタンの炉の世話人》
1《溜め込み屋のアウフ》
2《ドラニスの判事》
1《ガドック・ティーグ》
1《秋の騎士》
2《流刑への道》
3《ヴェクの聖別者》
1《空を放浪するもの、ヨーリオン》
《夢の巣のルールス》の禁止はモダン環境に多様性をもたらすのではないかと述べたが、一つ危惧すべきは《空を放浪するもの、ヨーリオン》の台頭だ。もし「《空を放浪するもの、ヨーリオン》は《空を放浪するもの、ヨーリオン》でしか倒せない」となったら、《夢の巣のルールス》と同じ轍を踏む可能性がある。
他方で、《空を放浪するもの、ヨーリオン》の場合《夢の巣のルールス》とは異なり制約のない80枚デッキでデッキ構造に必然的に多様性が生まれるので、心配ないと考えることもできる。
3マナ以上のパーマネントが使えるということは戦略の幅が広がるということでもあり、このデッキのようにマナ破壊戦略と組み合わせることもできる。デスタク系デッキは1マナ域の弱さもあって最近元気がなかったが、《耐え抜くもの、母聖樹》という新戦力を得たこともあり、禁止改定を追い風にこれから勢力を取り戻していくかもしれない。
Modern Challenge #12392345 3位
プレイヤー名:nazart
1《皇国の地、永岩城》
4《神無き祭殿》
4《平地》
4《無声開拓地》
1《沼》
1《見捨てられたぬかるみ、竹沼》
1《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》
「魂力」によりアーティファクトやクリーチャーをブリンクできる《精霊界との接触》の登場によって強化されたアーキタイプ。
また、《鬼の刃》《獅子の飾緒》などの「換装」を持つ装備品の登場によって《石鍛冶の神秘家》もさらなる柔軟性を手に入れている。特に黒でプレイアブルな装備品が登場したことは、《悲嘆》の追放材を確保しながら手が進められるという意味で堅実な進歩と言えるだろう。
《見捨てられたぬかるみ、竹沼》と「想起」クリーチャーの相性も良く、今後の研究次第でさらなる活躍が見込めそうなデッキだ。
Modern Challenge #12394230 5位
プレイヤー名:DeStar
4《魂の洞窟》
2《皇国の地、永岩城》
4《溢れかえる岸辺》
3《神聖なる泉》
2《霧深い雨林》
1《ムーアランドの憑依地》
2《天上都市、大田原》
1《ラウグリンのトライオーム》
4《金属海の沿岸》
1《冠雪の島》
2《冠雪の平地》
2《吹きさらしの荒野》
4《霊廟の放浪者》
3《幽体の船乗り》
4《鎖鳴らし》
4《無私の霊魂》
4《鎖霊》
4《至高の幻影》
4《ドラグスコルの隊長》
2《玻璃池のミミック》
1《大いなる玻璃紡ぎ、綺羅》
4《スカイクレイブの亡霊》
4《呪文捕らえ》
4《緻密》
4《孤独》
4《虹色の終焉》
2《時を解す者、テフェリー》
1《大いなる玻璃紡ぎ、綺羅》
3《ブレンタンの炉の世話人》
3《否定の力》
4《戦争の報い、禍汰奇》
3《ヴェクの聖別者》
1《空を放浪するもの、ヨーリオン》
大胆に《霊気の薬瓶》を抜いたスピリットが登場。青白のクリーチャーである《空を放浪するもの、ヨーリオン》を相棒にすることで、フル搭載した《緻密》《孤独》の受けを作っている点も面白い。
《夢の巣のルールス》の禁止は間接的に《孤独》のポジションアップにつながるともとれる。《孤独》環境になると予想するなら、今のうちに抜け穴を探っておいた方が良いかもしれない。
■ 2. もっと!『神河:輝ける世界』でバグを探そう
『神河:輝ける世界』は、様々なフォーマットに影響を与えるセットとなった。
だが、まだ足りない。世界はもっとクソデッキで溢れているべきなのだ。
そのためには、日頃からデッキを作って世に放っていくことが重要だ。アイデアはまた新たなアイデアを生み、いつかどこかで花開くかもしれない。
というわけで、今回も『神河:輝ける世界』に潜むバグをデバッグ (発見・解明) していくことにしよう。
◇《災厄招来》
これまで新カードがモダンで活躍するための条件として、「書いてある数字が大きいこと」「上限がないこと」「これまでそのフォーマットでできなかった動きをすること」などを挙げてきた。
その条件にまた新たに一つ追加しよう。それは、「少ないマナでより大きいマナの行動を実現できること」だ。
《災厄招来》。5マナで6マナ分の呪文が踏み倒せるこのカードは、多くの可能性を秘めている。
まず私が着目したのは、同時に2つのインスタント・ソーサリーを踏み倒せるという点だった。
すなわち、合計6マナ以下のインスタント・ソーサリーによる2枚コンボが存在したならば、《災厄招来》はその実現を大きく手助けすることができるのではないか、という発想だ。
この発想をもとに、私が作り上げたデッキがこちらだ。
デッキに1枚も土地を入れない状態で、《選り抜きの記憶》を唱えてライブラリーを0枚にしてから《タッサの神託者》を出すと勝利できる。このコンセプトはそれを《けちな贈り物》と《災厄招来》とのシナジーでバックアップしたものだ。
だが、このアイデアは控えめに言ってクソオブうんこだった。
何せ普通の青赤ストームなら、エンド前の《けちな贈り物》がカウンターされずに通った時点でほとんど勝利が確定するのに、このデッキは相手が《けちな贈り物》で適切な判断を下すとさらにそこから《災厄招来》を通さなければならなくなるという、致命的な欠陥を抱えていたのだ。
冷静に考えてみると、わざわざ墓地を経由してまで2枚コンボで使わなくても、《災厄招来》は6マナのインスタント・ソーサリー呪文の価値を大きく引き上げたのだから、素直に6マナのインスタント・ソーサリーを踏み倒せばいいという結論に至るのが通常だろう。
とはいえその代わりに、このカードがモダンで活躍するためには、今度は6マナのインスタント・ソーサリーで早く唱える価値があるものが存在している必要がある。
では、6マナのインスタント・ソーサリーで早く唱える価値があるものとは何か?……これについては、先人たちが既に答えを出してくれていた。
《ハゾレトの終わりなき怒り》。4枚めくって5マナ以下の呪文をすべてプレイできるという、運ゲーの極致のようなカードだ。
それでもこれまでは、「終わりなき」とか言っておいてめくれが弱いと簡単に怒りが終わってしまう菩薩モードのハゾレト様のせいで6マナも支払って唱える価値のある呪文とは言えなかった。
だが《災厄招来》の登場により、《災厄招来》がめくれると「もう一回遊べるドン!」となって一気にゲームをバグらせることが可能となったのだ。
しかし、まだ問題はある。それは《ハゾレトの終わりなき怒り》から次の《ハゾレトの終わりなき怒り》につなげることができないという点だ。
確かに《災厄招来》は、一度唱えた《ハゾレトの終わりなき怒り》を再利用することが可能である。しかしひとたびその動きをしてしまったら、次に《災厄招来》がめくれたとしても墓地には《ハゾレトの終わりなき怒り》が既に追放されて存在しないため、連鎖を続けることができなくなってしまうのだ。
つまりこの問題を解消するには、5マナ以下で山札から《ハゾレトの終わりなき怒り》を唱えられるカードが不可欠となる。
だが、そんなカードがもし仮に存在するとしたら《災厄招来》が出る前から《ハゾレトの終わりなき怒り》が既に注目されていてしかるべきなのである。
それでも、私は懸命にカードを探した。そして、その条件をかろうじて満たすカードに辿り着いたのだ。
《予想外の結果》。ありとあらゆるマナコストを無視し、《引き裂かれし永劫、エムラクール》すらも踏み倒すことが可能な魔法の呪文である。
このカードならば「《ハゾレトの終わりなき怒り》からめくれて《ハゾレトの終わりなき怒り》を踏み倒せる」という条件を満たす上に、《災厄招来》との相性も良い。早速私は《予想外の結果》《災厄招来》《ハゾレトの終わりなき怒り》の3種を搭載したデッキを組んで意気揚々と一人回しを始めた……の、だが。
回らん。
そう、冷静に考えて……というか考えるまでもなく、4枚もめくれる《ハゾレトの終わりなき怒り》とは違って1枚だけの完全ランダムだと普通に土地がめくれて台がパンして終わるに決まっていたのである。
「《ハゾレトの終わりなき怒り》からめくれて《ハゾレトの終わりなき怒り》を踏み倒せる」……《予想外の結果》まで引っ張り出したほどに達成難度の高い条件を前に、私の心は早くも折れかけていた。
だが長い思案の果てに、私は発想の転換に思い至ったのである。
どういうことかというと、モダンで定番マナ加速の《発熱の儀式》《捨て身の儀式》《魔力変》に加え、《太陽との交感》や前回紹介した《不可能の発見》も合わせれば、《ハゾレトの終わりなき怒り》でめくれたときにマナ加速できるカードはデッキ内に既に20枚も存在している。
ならば、確率的には4枚の中にマナ加速は大体含まれているのだから、《ハゾレトの終わりなき怒り》からめくれたカードAは必ずしも直接《ハゾレトの終わりなき怒り》を踏み倒せる必要はないのではないか。
たとえば《ハゾレトの終わりなき怒り》で衝動的ドローができるカードAとマナ加速呪文Bを唱え、Aから《ハゾレトの終わりなき怒り》をめくりつつ、Bで生み出したマナから《ハゾレトの終わりなき怒り》を素打ちすればいいのだ。
もちろん1枚で6マナを生み出せるマナ加速呪文は《アイレンクラッグの妙技》か《大地のうねり》くらいしかないので一見無謀に思えるかもしれない。
だが、そもそも最初の《ハゾレトの終わりなき怒り》を唱える時点で《ゴブリンの電術師》や《ゴブリンの壊乱術士》を絡めておけば《ハゾレトの終わりなき怒り》のコストは軽くなるし、最初の《ハゾレトの終わりなき怒り》の時点でマナ加速呪文と合わせてさらなる《ゴブリンの電術師》や《ゴブリンの壊乱術士》がめくれているかもしれないことを考えると、あながち不可能なプランとは言えないのだ。
この発想はカードAを求める要件を大分楽にしてくれた。つまり、実際のところ必要なのは《ハゾレトの終わりなき怒り》へのアクセシビリティだけでいいのだ。
だがだとしても、たとえば《衝動的な行動》では追放枚数が3枚と頼りなく、さらなる《ハゾレトの終わりなき怒り》にたどり着けるかどうかが怪しい。
ならば《スカルドの決戦》はどうかというと、今度は《災厄招来》との相性が悪くなってしまう。
つまり必要なのは、5マナ以下で《ハゾレトの終わりなき怒り》でめくれて4枚以上を衝動的ドローとして追放できるインスタント・ソーサリーということだ。
大変長らくお待たせした。
その答えとは、そう。
《僻境への脱出》を使えばいいのでは???
このカードならば5枚という割と信頼できる枚数で《ハゾレトの終わりなき怒り》を探しにいくことができるし、《災厄招来》で再利用しがいもある。
さらに何より《僻境への脱出》が優れているのは、追加のセットランド権が生まれるため実質的に2枚目以降の《ハゾレトの終わりなき怒り》を軽減しているという点だ。
かくして、「《ハゾレトの終わりなき怒り》から《ハゾレトの終わりなき怒り》を唱える」という当初一見無謀に見えたルートがついに開拓されたのである。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
MAGIC LABORATORY(たいむましん)連載
「デバッグ・マジック! 」vol.11 掲載デッキ
デッキビルド:まつがん
「お前毎回ストームじゃねーか!」と思うかもしれないが、ストームはマジックの歴史上最も凶悪なギミックであると同時に最も一人回しが楽しいギミックなのでしょうがないところである。ちなみに2ターン目に出した《ゴブリンの電術師》《ゴブリンの壊乱術士》が除去されたら以後は《燃えさかる炎》の表情で圧をかけながら対戦中ずっと睨み続けることになるので覚悟しておいてもらいたい (?)。
◇《精神連繋メカ》
これまで様々に「モダンで活躍するための条件」を述べてきたが、そうした法則に当てはまらないけれども可能性を感じるカードも存在する。
『神河:輝ける世界』にも、そのような具体例が存在していた。
《精神連繋メカ》。「搭乗」した伝説でないクリーチャーのコピーになる能力を持つこのカードだが、モダンで活躍するには一見やや力不足のようにも思える。
何せモダンには《幻影の像》という最軽量の《クローン》系クリーチャーが存在するからだ。
しかし、それだけで諦めてしまうというのでは味気ない。何か、《精神連繋メカ》にしかできないことがあるはずだ。特定のあるカードを使ってデッキを作りたいなら、そのカードが持つ唯一無二性を見出す必要がある。
では、「《クローン》系クリーチャーにはできなくて《精神連繋メカ》ならできること」といえば何が挙げられるだろうか?
これについてはテキストを読めば自ずと判明する。それは「サイズが変わる」ことと「飛行が付く」ことだ。
だとしたならば、次に考えるべきは「サイズが変わって嬉しい/飛行が付いて嬉しいクリーチャーとは何か?」ということだ。
ただ、これだけだとまだ雲を掴むような話かもしれない。しかしもう一つ考えるべきことがある。それは、「《精神連繋メカ》の最大バリューが発揮されるのはいつなのか?」ということだ。
つまり、最も弱いクリーチャーが《精神連繋メカ》によって性能を引き上げられた限界事例を考えるべきということになる。これについては、「搭乗」の下限であるパワー1のクリーチャーをコピーした場合が最もバリューが大きいということになるだろう。
さて、ここにきてようやく《精神連繋メカ》の本質が見えてきた。《精神連繋メカ》は、「パワーが1のクリーチャーでも4/3というサイズにして飛行を持たせることができるカード」なのだ。
ならば《精神連繋メカ》によってコピーするべきは、「パワーが1であり、コンバットに絡んだシステムクリーチャー」ということになる。
具体的な例としては、《トゲ撃ちの古老》や《戦慄衆の秘儀術師》、《静電気式打撃体》や《霊廟の放浪者》など、「自身のパワーを参照した能力」を持っているパワー1のクリーチャーは、《精神連繋メカ》でコピーした際に能力のスケールが膨れ上がることになる。
とはいえ、これらのクリーチャーの多くは単体では十分なパワーを発揮することができない点で問題がある。《精神連繋メカ》はデッキに4枚しか入れられないし、さすがにこれほど特殊なカードの代替カードとなる5~8枚目は見つけることが難しいだろう。
つまり、求めるデッキは《精神連繋メカ》がなくても十分勝てるコンセプトである必要があるのだ。
そのようなコンセプトとして私が最初に思い浮かべたのは、「感染」だった。
「感染」を持つクリーチャーは、勝利条件からすれば通常のクリーチャーの2倍のパワーを持っているとみなすことができる。つまり「感染」を持つクリーチャーが1→4へとパワーアップするということは、通常のライフに照らせば2→8へのパワーアップと同義となるのだ。しかも「飛行」も持たせることができるというのだから、これ以上噛み合いのいいコンセプトはそうそう見つからないだろう。
しかし、この発想には一つ問題があった。
「じゃあ《ファイレクシアの十字軍》入れればよくね???」という理性的なツッコミに抗うことができなかったのである。
そもそも「感染」は既存のコンセプトとしてかなり完成されており、《精神連繋メカ》というカードパワー的にムラのあるカードを許容していなかったというのもある。
かくして《精神連繋メカ》は最も噛み合うと思われたコンセプトから弾き出され、また新たな相方を見つけなければならなくなった。
かといって、「感染」以外でパワーが1→4となるだけで決定的な変化となるようなコンセプトが存在するとも思えない……。
私は絶望感に苛まれながらも、必死でカードを探した。
そして、その果てに。
まさかの邂逅を果たしたのだ。
《セファリッドの警官》を「搭乗」させればいいのでは???
「え、こんなカードモダンに存在したの???」と言いたくなるほどマイナーな1枚だが、戦闘ダメージが通ったならばそのダメージ分だけ相手のパーマネントを手札に戻せるという冷静に考えるとド派手な能力を持った1枚である。
だがそんな《セファリッドの警官》が使われてこなかったのには理由がある。何の回避能力も持たない1/1クリーチャーの攻撃が通るはずもないからだ。
だが、もしこのカードが《精神連繋メカ》に「搭乗」したならばどうか。
4/3飛行による一撃で、早くも3ターン目に相手のマナを全部吹き飛ばすことすら夢ではないのだ。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
MAGIC LABORATORY(たいむましん)連載
「デバッグ・マジック! 」vol.11 掲載デッキ
デッキビルド:まつがん
4《君は近づいてくる護衛兵に気づいた》
4《集合した中隊》
4《精神連繋メカ》
《精神連繋メカ》を引かない場合は8枚入った「賛美」持ちが《セファリッドの警官》をバックアップしてくれる。また、《セファリッドの警官》を引かない場合の《精神連繋メカ》の相方として、《冷淡なセルキー》もパワー1→4の変化でかなりバリューが上がるカードだ。
ちなみに何の脈絡もなく入っている《若き狼》は「相手が除去を構えているときに《精神連繋メカ》に『搭乗』して『不死』付きで殴って除去をかわせるぞ、うふふ」といった考えではなく単に《敏捷なこそ泥、ラガバン》への憎しみが溢れすぎた結果なので安心してもらいたい (?)。
◇《有能な整備士》
『神河:輝ける世界』には、密かにデザイナーにプッシュされているメカニズムが存在していた。
《有能な整備士》。「機体」に「搭乗」する限りにおいては1マナパワー4相当になるという変わり種のアーティファクト・クリーチャーだ。
しかしそもそもモダンで「機体」というのはよほどのことがない限り通用しない (じゃあ前の段落は何だったんだよ) 上に、《有能な整備士》が唯一無二性を発揮して活躍するためには「搭乗4」以上である必要がある。
モダンで通用するほど軽くて強力な「搭乗4」以上の「機体」……そんなものが存在するとしたらそれは都市伝説級に珍しいのではないか?というのが通常の発想だろう。
だが、モダンにはマナコストが軽くてパワフルな「機体」が実は存在していたのだ。
重量級メカを動かすのは男の子の夢なのでは???
《領事府の弩級艦》や《巨大な鋤》は、「搭乗6」というおよそ2マナ以下のクリーチャー単体では動かせない厄介なロボット (?) となっている。
だが《有能な整備士》は1マナでパワー4相当として「搭乗」できるので、脇のクリーチャーのパワーの要求値を相当に下げることができるのだ (それでも2人乗りなので《領事府の弩級艦》は実質ニルヴァーシュということになりあの頃のようにCome on! 光はなつ少年のハート)。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
MAGIC LABORATORY(たいむましん)連載
「デバッグ・マジック! 」vol.11 掲載デッキ
デッキビルド:まつがん
基本的には入りそうなカードを片っ端から自動的に入れていっただけなのであまり面白味はないが、唯一オシャレなポイントは《エーテル宣誓会の法学者》で、自分にはほぼ影響なく相手の行動を制限することができる。
もっとクソデッキ要素を高めるために大量のフェッチランドと《ステップのオオヤマネコ》まで追加したバージョンも考えたのだが、そのうち土地が足りなくなって「搭乗」すらできなくなった0/1の猫が戦場に悲しく佇むことになりそうだったので、猫派の私としてはお蔵入りにせざるをえなかった。
あと《巨大雄牛》も入れようとしたけど「こんな弱そうなコモンで勝てるはずがない」という理性が勝ってしまった。もっと見た目の頭の悪さを追求するべきだったとクソデッキビルダーとして反省している。
◇《梅澤悟》(?)
『神河:輝ける世界』には、どうしても越えなければならない壁が存在した。
《梅澤悟》。このカードはウィザーズからデッキビルダーへの挑戦状と言っても過言ではない。
誰しもが一瞬で思いつくコンボとは裏腹に、圧倒的に高い要求値でことごとくデッキにならないのがこのカードだからだ。
ちなみに、そのコンボとは。
《荒廃鋼の巨像》を「忍術」したら一瞬で勝つのでは???
《梅澤悟》であらゆるクリーチャーに「忍術」が持たせられるならば、「忍術したら勝ち」のクリーチャーを用意すればいいということになる。その条件に当てはまるのは、《荒廃鋼の巨像》しかない。
とはいえ、《梅澤悟》と《荒廃鋼の巨像》の2枚コンボがそんなに難しいのか?と思われるかもしれない。
しかしこれについては作ってみようとすればわかるのだが、そもそも「忍術」の種となるクリーチャーが必要なため実際は2枚コンボですらない上に、3マナ2/4バニラの《梅澤悟》を除去されないよう守ってやる必要もあり、それでいてフィニッシュターンに軽減できない4マナが絶対必要というのは、率直に言って狂気の部類である。
「ドロー忍者通ってカード引いてたらわざわざコンボとかしなくても勝つやろ」の図
「何がしたいねん」の図
このような迷走を経て、私は一つの結論にたどり着いたのである。
《梅澤悟》も《荒廃鋼の巨像》もそれぞれ単体で使い道がなさすぎるという事実に。
普通にゲームをしていて「じゃあドローしますね」って言って引いたらコンボ以外一切使い道のない12マナのアーティファクト・クリーチャーがランダムに襲ってくるのである。引けば引くほど不利になるカードを4枚入れざるをえないというのがこのコンセプトの致命的な矛盾であった。
ならば、どうするか?
単体で他の役割を持たせればいいのだ。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
MAGIC LABORATORY(たいむましん)連載
「デバッグ・マジック! 」vol.11 掲載デッキ
デッキビルド:まつがん
《大建築家》《練達の変成者》まで用意して、《荒廃鋼の巨像》を介護する体制を整えた……のだが、注意喚起のために一応先に伝えておくと、これはクソデッキどころの騒ぎじゃなくてうんこそのものである。
要求値が高いコンボを介護するのに弱いカードをたくさん入れざるをえないことほど空しいことはない。
《波使い》を入れたらどうか……などと色々考えたが、結局のところコンボのハードルが高すぎることに変わりはない。そんなことまでするくらいなら《サヒーリ・ライ》+《守護フェリダー》とか《裂け目の突破》+《引き裂かれし永劫、エムラクール》した方が何倍もマシという身も蓋もない結論が出てしまったので……そうはならなかった。ならなかったんだよロック。だからこの話はここでおしまいなんだ。
そういうわけで、私は『神河:輝ける世界』に宿題を置いていく。誰か、私の代わりに《梅澤悟》を救ってあげて欲しい。
■ 3. 終わりに
『神河:輝ける世界』は、モダン環境を壊しもせず、かといって全く影響がないわけでもなく、全体的に程よいカードパワーのセットだった。
それに比べて何といっても影響が大きいのは《夢の巣のルールス》の禁止だろう。これにより、これからモダンはさらに混沌としたメタゲームが楽しめることになりそうだ。
さらに来月末、4月29日(金) には『ニューカペナの街角』が発売となる。そこでははたしてどのようなバグが待ち受けているのか、楽しみに待つとしよう。
ではまた次回!
クソデッキビルダー。独自のデッキ構築理論と発想力により、コンセプトに特化した尖ったデッキを構築することを得意とする。モダンフォーマットを主戦場とし、代表作は「Super Crazy Zoo」「エターナル・デボーテ」「ステューピッド・グリショール」など。Twitter ID:@matsugan
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