デバッグ・マジック! vol.1 ~『ストリクスヘイヴン:魔法学院』編~
はじめまして。私は「まつがん」……しがないクソデッキビルダーだ。
今回、縁あってこちらのメディアでTCG「マジック:ザ・ギャザリング」について、その一つの遊び方であるモダンというフォーマットを中心に、環境概説や新カードを使ったデッキ紹介などをしていく記事を書かせていただくことになった。
主に「新セットでバグのごとく強力なシナジーやコンボを発見・解明 (デバッグ) していく」というコンセプトで見ていこうと思うので、最後までお付き合いいただければ幸いだ。
目次
1. モダン環境概説と注目デッキ紹介
『ストリクスヘイヴン:魔法学院』の一つ前のセット、今年の2月から始まった『カルドハイム』環境では、その発売直後に行われた大規模な禁止改定の影響もあり、「ヘリオッドカンパニー」が終始王者であり続けた環境となった。
プレイヤー名:PTarts2win
2《歩行バリスタ》
4《東屋のエルフ》
1《貴族の教主》
4《議事会の導師》
3《オーリオックのチャンピオン》
4《イーオスのレインジャー長》
4《スカイクレイブの亡霊》
4《スパイクの飼育係》
4《太陽冠のヘリオッド》
4《流刑への道》
4《夏の帳》
4《減衰球》
1《ブレンタンの炉の世話人》
1《巨人落とし》
1《オーリオックのチャンピオン》
その主な要因は、禁止改定による高速コンボとコントロールの弱体化にある。速度というパラメータにおいて最速のデッキと最遅のデッキがそれぞれ規制を受けた結果、中間帯における覇者がそのまま環境の覇者に居座る格好となった。
モダンには大きく分けて高速アグロ、月アグロ、墓地アグロ、妨害アグロ、ヘイトベア、クリーチャーコンボ、土地コンボ、コントロールといったアーキタイプが存在するが、「ヘリオッドカンパニー」の強みはその全方位性にある。
赤白果敢、赤青果敢、バーン、装備シュート
・月アグロ
赤単果敢、赤緑ストンピィ
・墓地アグロ
発掘
・妨害アグロ
ジャンドシャドウ
・ヘイトベア
5C人間、スピリット、デスタク
・クリーチャーコンボ
ヘリオッドカンパニー、ターボドルイド
・土地コンボ
アミュレット、トロン、エルドラージトロン
・コントロール
5C白日シフト、ニヴミゼット再誕、エスパーコントロール
・その他
ライブラリーアウト
どのアーキタイプも10%を超えないというほどに数多の強力なアーキタイプが存在するモダンにおいて、「ヘリオッドカンパニー」は苦手なデッキが少ない上に苦手度合いが非常にマイルドという圧倒的な強みがあった。
では、そんな「ヘリオッドカンパニー」が支配する環境が『ストリクスヘイヴン:魔法学院』の発売によってどのように変わったのか。
プレイヤー名:mac121711
1点目は「赤白果敢」の強化である。
もともと2マナの《道の探求者》が採用されていたところに1マナの《賢い光術師》が新たに加入したことにより、爆発力と安定性の両立が可能となった。
当初は《大地の裂け目》の「ストーム」との組み合わせが主に取り沙汰されていたこのカードだが、そんなことをしなくとも12枚の1マナ域を展開してから途切れることなく呪文を連打し、強化されたクリーチャーたちによって高速で対戦相手を仕留めるというコンセプトは、リソースを交換する気がない相手に対しては十分高確率で3ターンキルを決められるため、非常に強力だ。
プレイヤー名:_Stream
4《僧院の速槍》
4《損魂魔道士》
4《スプライトのドラゴン》
1《厚かましい借り手》
4《嵐翼の精体》
2点目は「赤青果敢」の強化である。
ほぼ戦闘後にしか唱えられず「果敢」との相性が悪かった上に、相手にアクションが予想されるという難点があった《舞台照らし》が《表現の反復》に差し変わったことで、「攻め」と「溜め」をよりスムーズに連結させられるようになった。
これら2種の赤系果敢デッキが以前よりも引き締まり、デッキパワーが底上げされたことによって、環境は多様性を保ちつつもまずは「赤系果敢」と「ヘリオッドカンパニー」の2強体制といっても差し支えない状況となった。
プレイヤー名:Xuxa
こうしたメタ上位勢の変化以外にも、「発掘」の強化も見逃せない。
もともと《谷の商人》という初手キープに最低限貢献すれど決して強くはないカードの代わりに《身震いする発見》が入り、《安堵の再会》が8枚になったことは、このデッキの安定性と爆発力の増加に大幅に寄与した。
現在はアンフェアなデッキが土地活用と墓地活用に偏っているため、マークが外れる機会は少なそうだが、他のアンフェアなデッキが目立った翌週などに持ち込めば、トップ8までは軽く勝ちきれるほどのポテンシャルは間違いなくあると言えるデッキだ。
プレイヤー名:SoulStrong
1《森》
1《島》
1《山》
1《平地》
1《繁殖池》
1《聖なる鋳造所》
1《蒸気孔》
1《踏み鳴らされる地》
1《寺院の庭》
2《ケトリアのトライオーム》
2《ラウグリンのトライオーム》
1《サヴァイのトライオーム》
4《霧深い雨林》
4《吹きさらしの荒野》
4《樹木茂る山麓》
4《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》
1《嘘の神、ヴァルキー》
4《イリーシア木立のドライアド》
3《創造の座、オムナス》
ほか、新戦力を得たというわけではないものの、禁止改定によって受けたダメージから立ち直ってちょうどこの時期に再構築されたコンボ×コントロールとして、「5C白日シフト」の完成は一つの注目すべきトピックではある。
現在モダンで最も強力なコンボの一つは《イリーシア木立のドライアド》と《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》との組み合わせであることは間違いないわけだが、かといってそれを一貫したコンボデッキとしてではなく、あくまでコントロールデッキのフィニッシュにおけるサブプランに留めて運用するこのアーキタイプは、玄人が好みやすいコントロール界の王として定着してきている。
2. 『ストリクスヘイヴン:魔法学院』でバグを探そう
このようにガチの競技目線で見ると、『ストリクスヘイヴン:魔法学院』はモダンに対して、「新アーキタイプを生み出すほどではなかったが、いくつかのカードは既存のアーキタイプに採用され、堅実に結果を残した」といった感じの、新セットとしてはおよそ平均的なインパクトを与えたと言っていい。
だが、本当にそれがすべてなのだろうか?
新アーキタイプを生み出すほどのバグが、いまだ発見されていないだけなのではないか?
というわけで、ここではまだ見ぬ新アーキタイプ誕生の可能性を追い求めて、『ストリクスヘイヴン:魔法学院』のデバッグ作業を行っていく。
そのためには、前提として「どういったカードがバグを生み出すのか?」を知っておかなければならない。
そこへいくと私の経験上、「1ターンに1回しか起動できない能力はバグにならない」「召喚酔いに影響されるものはバグにならない」「マナがかかるものはバグにならない」という法則がある。
つまり逆にバグを生み出すカードとは、「ターン中の発動回数に上限がなく」「召喚酔いに影響されず」「マナがかからない」ものである可能性が高い、ということだ。
なので、この条件をクリアしたカードをいくつかピックアップし、試しにデッキを作ってみることにしよう。
《ストリクスヘイヴンの競技場》
《タッサの神託者》の各フォーマットでの活躍ぶりを見ればわかるように、特殊勝利は最も簡単に見出されるバグの可能性だ。
《ストリクスヘイヴンの競技場》はイラスト的に「ハリー・ポッター」におけるクィディッチのような競技をイメージしてデザインされていると思われる。
その効果は具体的には、自分のクリーチャー1体が対戦相手に戦闘ダメージを与えるごとに1点が加算されカウンターとして《ストリクスヘイヴンの競技場》の上に乗っていき、反対に対戦相手のクリーチャー1体が自分に戦闘ダメージを与えると-1点としてカウンターが減殺され、最終的に10点分のカウンターを溜めたら特殊勝利……というもので、要するにクリーチャー全体が《悪性スリヴァー》のように「有毒1」を持った状態になる (ただし相手はそれを相殺できる) というようなものだと理解できる。
ただこのカードを普通に使う前提だと、たとえば10体の1/1クリーチャーで殴れば即勝利となるわけだが、そもそもそんな状況ではこのカードがなくても次のターンには勝てるわけで、結論としてはいいから遊んでねーでさっさと殴れよという話になってしまう。
つまり《ストリクスヘイヴンの競技場》を運用するためには、それ自体正攻法ではなくバグを活用する必要があるのだ。
では、《ストリクスヘイヴンの競技場》をどのようにしてバグらせるのか?
そう、《進化の賢者》で「増殖」しまくればいいのだ。
《ストリクスヘイヴンの競技場》は戦闘ダメージを与えなくてもタップしてマナを出すだけで1点分のカウンターは獲得できるので、この1点を元手にした「増殖」で無から9点を錬成すればいいのである。
まるでディフェンスを無視してゴールの真裏からシュートを決め続けるようなバグ技だが、クィディッチにも金のスニッチを捕まえるだけで勝ててしまうというバグみたいなルールが存在するので大体似たようなものだろう (?)
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
ただ、どれだけバグによって得点を増やせたとしても最後の1点だけはクリーチャーの攻撃によってシュートを決めなければならないというのが《ストリクスヘイヴンの競技場》の特殊勝利条件のお茶目なところ。つまり、《墨蛾の生息地》がハリー・ポッターになれるかどうかはこのデッキを回すあなた次第なのだ (投げやりエンド)。
《デーモゴスのタイタン》
4マナ11/10というバグのスタッツを持つこのカードだが、デッキビルダーが10以上のパワーを見たとき、考えることは一つだけだ。
そう、10は2倍にすると20なのである (小学生)。
幸いモダンにはもう一種類、《新星追い》というエレメンタル覇権とはいえ4マナパワー10のクリーチャーが存在しているので、2マナ域のマナクリーチャーをエレメンタルに寄せることで4ターン目20点シュートの動きを狙うことができる。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
4《絡みつく花面晶体》
4《枝葉族のドルイド》
4《デーモゴスのタイタン》
4《新星追い》
さすがにモダンを舐めすぎでは???というツッコミが聞こえてきそうだが、4マナパワー11のバニラ……否、バグを有効活用しようとするならこんな感じにならざるをえない。そうだ、バグっているのは1マナでクリーチャーを何でも処理できたり3ターン目に人が死んだりするモダンの方なんだ。いや、違う……違うな。彗星はもっと、バァーって動くもんな。アハハハハ……(精神崩壊エンド)。
《選別の儀式》
この段落の冒頭で「上限がないカードはバグる可能性が高い」と書いたが、それに加えて「マナを出す能力」となると、バグの可能性はさらに高くなる。
《選別の儀式》は相手の小型クリーチャーを除去しながらもテンポがとれるというのが普通の使い方だろうが、場のパーマネントの数に依存はするものの、自分でパーマネントを並べまくって唱えればマナが増えるという使い方もすることができる。
これは実質《クラーク族の鉄工所》なのでは???
そう、《テラリオン》や《胆液の水源》のようにそのターン中に自ら墓地に落とせないパーマネントを破壊し、ドローを進めながらマナを維持。そしてそのマナを《信仰の見返り》にあててパーマネントを再利用すれば、徐々に拡大するドローとマナのチェインが誕生するのではないか。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
《クラーク族の鉄工所》と違って場に残り続けるわけではないので、常に最適なタイミングで《選別の儀式》を引き続ける必要はあるものの、アーティファクトをガチャガチャしてドローを進めるチェインコンボは回していて非常に楽しいデッキである。ただ、早くても4ターン目にしか決まらないしカウンターはおろか墓地対策も銀対策も厳しいところが平成のデッキという趣を感じさせる。ああ、あの時代は良かったわい……。のう婆さんや、ご飯はまだかいな…… (痴呆エンド)。
《ウィザーブルームの初学者》
レガシーでは《煙霧の連鎖》との無限コンボで話題のこのカードだが、冷静に考えると無限コンボ自体はモダンでも再現可能なのである。
そう、コピー呪文をコピーすればコピーを無限にスタックに乗せられるのだ。
ただもちろんカード1枚で無限コピーが可能な《煙霧の連鎖》とは異なり、コピー呪文のコピーで無限のスタックを作るには「1. コピーの元になる呪文」「2. 1を対象とするコピー呪文」「3. 2を対象とするコピー呪文」の3枚が必要なので4枚コンボという虚無になってしまうのだが、それでもコピー呪文をデッキに大量に入れまくることで、コンボが揃わないパターンの発生確率を軽減させること自体は可能だ。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
4《ウィザーブルームの初学者》
4《龍護りの精鋭》
やったぜベイベー!なんと除去1枚で崩壊するぜ!アンビリーバボー!!ひゃっほーい!!(テンションで誤魔化しエンド)。
3. おまけ:スタンダード・パイオニア注目デッキ紹介
ここまで見てきたとおり、『ストリクスヘイヴン:魔法学院』はモダンではそこまで大きなインパクトはなかったが、スタンダードやパイオニアといったフォーマットに対してならばより大きな影響があったと考えられる。
ここでは、そんなそれぞれのフォーマットで『ストリクスヘイヴン:魔法学院』のカードを生かしたデッキを紹介しておこう。
(SCG Tour Online Satellite 6-0)
プレイヤー名:Florian Klein
4《沼》
2《山》
4《サヴァイのトライオーム》
4《荒廃踏みの小道》
4《陽光昇りの小道》
4《針縁の小道》
4《ひきつり目》
4《鋸刃蠍》
2《死の飢えのタイタン、クロクサ》
2《悲哀の徘徊者》
4《オリークの首領、エクスタス》
2《イマースタームの捕食者》
《オリークの首領、エクスタス》は「モードを持つ両面カード」で、裏面の《血の化身の目覚め》は場のクリーチャーを生け贄にしながら強力なアバター・トークンを生み出す呪文である。こうした生け贄カードと《ひきつり目》や《鋸刃蠍》のように死亡時に能力が誘発するクリーチャーとを組み合わせ、「出す→食べる」をひたすら連鎖させ続けるのがコンセプトとなっている。
「履修+講義」のギミックも活用しており、『ストリクスヘイヴン:魔法学院』のポテンシャルを感じさせるデッキだ。
プレイヤー名:KO_Mak
「果敢」も「魔技」もインスタント・ソーサリーを唱えた回数を参照するところ、「履修+講義」のギミックは1枚で2回分の詠唱を保証するため、極めて相性が良い。
1マナ域を「1→1+1」の動きで3体展開してからの呪文連打はそれこそ<strong>バグのような打点増加につながるため、モダンレベルの動きも夢ではない。
4. 終わりに
カードにバグの可能性があったとしても他のバグの下位互換ではないとは限らないというのが難しいところで、特にモダンという歴史が長くカードプールも広いフォーマットだと、後から出てきたカードが歴史の積み重なった既存のアーキタイプに変革を起こすというのは、なかなかにハードルが高いものと言わざるをえない。
ただ、確かに『ストリクスヘイヴン:魔法学院』はカードパワーという点で見れば少し不足気味だったかもしれないが、カードの方向性としてはコンボ向きのものが多く、将来的にはバグが生まれる可能性も十分考えられるセットなので、今後のセット次第では大化けする可能性もあるということは頭の片隅にとどめておいた方が良いだろう。
さて、来月には6月18日(金) に発売予定の『モダンホライゾン2』によるモダン環境の激変が予想される。前回の『モダンホライゾン』は《甦る死滅都市、ホガーク》《最高工匠卿、ウルザ》《アーカムの天測儀》など無数のバグをもたらした実績があるため、はたして環境にどんな影響をもたらすのか、リストの公開を楽しみに待つこととしたい。
それでは、本日の授業はここまで!ご清聴、ありがとうございました!!(唐突なストリクスヘイヴン要素)
クソデッキビルダー。独自のデッキ構築理論と発想力により、コンセプトに特化した尖ったデッキを構築することを得意とする。モダンフォーマットを主戦場とし、代表作は「Super Crazy Zoo」「エターナル・デボーテ」「ステューピッド・グリショール」など。Twitter ID:@matsugan
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