平成スーパー戦隊 レッツ・ゴー!レッツ! 第1回 フォーマットがあるからこそ、戦隊は「人間」と「ドラマ」を描く
こんにちは、結騎了です。こちらの「WEB文芸」コーナーで連載している『特撮ブロガー結騎了の平成特撮ヒーロー探訪』。前回は、平成仮面ライダーの記念すべき第1作目『仮面ライダークウガ』を紹介しました。続く今回は、スーパー戦隊シリーズに焦点を当てていきます。
題して、『平成スーパー戦隊 レッツ・ゴー!レッツ!』。平成の約30年間に放送されたスーパー戦隊作品を、いくつかピックアップしながら、全4回(予定)をかけて追っていきます。赤がリーダーで、5人構成で、敵の軍団がいて、ロボットで戦って……。スーパー戦隊シリーズは、そんな多くの人が抱くパブリックイメージと、どのように向き合ってきたのか。
前述の仮面ライダーと交互に更新していく予定ですので、段々と年代が進んでいく構成になります。ぜひ、あわせてお読みください。
スーパー戦隊のはじまり、その歴史
さて、「スーパー戦隊」、広くは「戦隊もの」と言われますが、全く知らないという人はあまりいないでしょう。前述のように、詳しくない人でも、すでにある程度のイメージを持っているのではないでしょうか。
その起源は、1975年に放送が開始された『秘密戦隊ゴレンジャー』にまでさかのぼります。アカレンジャーをリーダーとする、5人のヒーローチーム。彼らは、悪の軍団・黒十字軍と熾烈な戦いを繰り広げました。「色とりどりのヒーローチームが敵組織と戦う」フォーマットは後続作品にも強い影響を与え、これが結果として、スーパー戦隊シリーズの幕開けとなったのです。
その後、『バトルフィーバーJ』に巨大ロボットが登場し、『電子戦隊デンジマン』は当時ブームとなった宇宙SFを展開、『太陽戦隊サンバルカン』は初の3人戦隊と、フォーマットの幅は少しずつ、しかし確実に広がっていきました。1989年には、平成初の戦隊ヒーロー『高速戦隊ターボレンジャー』が放送を開始。その前年の『超獣戦隊ライブマン』を含め、この頃にはすでに、子どもへの訴求力が高い「車」「動物」といったモチーフが採択されるようになりました。
すでに「定番ヒーロー番組」としての地位を絶対的に確立していたスーパー戦隊シリーズは、その後も様々なモチーフやアプローチを取り込みながら、更なる発展を遂げていくのです。
恐竜、忍者、巨大怪獣。様々な要素を取り入れた平成初期
平成に入って以降、スーパー戦隊シリーズは、先のパブリックイメージとの距離の取り方に試行錯誤を重ねていきます。
赤がリーダーで、5人構成で、敵の軍団がいて、ロボットで戦って……。もちろん、ほとんどの作品はこの「枠」にはまっています。しかし同時に、この枠組みの中にいかに新しい挑戦を盛り込むか。そういった視点が、モチーフやキャラクター造形、物語の構成にいたるまで、散りばめられていくのです。
例えば、1992年の『恐竜戦隊ジュウレンジャー』。絶大な人気を誇る「恐竜」をモチーフに選び、レッドはティラノサウルスの力を宿した戦士に設定されました。本作には、レギュラー6人目の戦士が初めて登場。俗に言われる「追加戦士」が姿を現します。
番組途中から現れるニューカマーは、1年間という長い期間で放送される物語に新たな緩急をもたらしました。この発明は見事に視聴者の支持を得て、その後、シリーズの鉄板フォーマットとして組み込まれていきます。「追加戦士」は、時には信頼のおける仲間、時には分かり合えない強敵として、ドラマを彩るのです。
1994年の『忍者戦隊カクレンジャー』は、今や日本の代表的文化として広く認知されている「忍者」がモチーフ。手裏剣を投げ、水の上を走り、変わり身の術で敵を翻弄する。アメコミ調にリファインされた妖怪たちを、ロードムービーのスタイルで成敗して回る、そんな若者たちの日々が描かれました。ケイン・コスギが出演していたことでも有名ですね。
チームの実質的なリーダーが姉御肌のホワイトであったり、敵である妖怪があまり組織化されていなかったりと、お馴染みフォーマットに少しずつメスを入れていく様子が見られます。
更にその4年後、1998年の『星獣戦隊ギンガマン』には、「星獣」という架空の生物が登場。分類としては巨大怪獣に近く、そのナマナマしい造形は異彩を放ちました。しかも、どう見ても生きた獣である彼らは、結果として「合体」して「ロボット」になるのです。こうして、「巨大ロボット」にも次第にキャラクター性が与えられ、作劇の幅は更に広がっていくのでした。
これが「星獣」。ファンタジーな巨大生物が、果たしてどうやってロボットになるのか。当時観た時はとても驚きました。
キーワードは「人間」と「ドラマ」
さて、ここからは、そんな平成初期のスーパー戦隊シリーズから、ふたつの作品を紹介していきます。
まずは、『鳥人戦隊ジェットマン』。1991年の作品です。タイトル通り、採用されたモチーフは「鳥」。くちばしを配置したマスクデザインに、翼を広げて空を飛ぶスタイル。そんな空を駆ける戦士たちは、次元戦団バイラムとの戦いに身を投じていくのです。
本作最大の特徴は、「変身前の人間ドラマ」にスポットが当てられていること。もちろんヒーロー番組なので、変身して、敵と戦い、果てにはロボットに乗ってそれを撃破します。しかし、そのアクションシーンと肩を並べるように、「人間ドラマ」がこれでもかと魅力的に描かれました。
「戦うトレンディドラマ」とも評される『ジェットマン』では、メンバー同士の恋愛模様が色濃く進行していきます。分かりやすく色で表現すると、ホワイト(女性)はレッド(男性)に好意を抱くのですが、ブラック(男性)がホワイトに何度もアプローチを仕掛けるという、見事な三角関係です。しかもレッドにおいては、事故で失ったと思われた恋人が洗脳され敵組織に加わっているという、ショッキングな展開を迎えます。このように、チーム内だけでなく、敵組織までを巻き込んだ恋愛模様が咲き乱れ、ある時はピュアに、ある時は愛憎に傾きながら、「人間」が描かれていくのです。企画段階では、「最後まで変身しない話」の案もあったとか。
当時は「問題作だ!」という新聞への投書もあったという『ジェットマン』。特に、ブラックコンドルに変身する結城凱(ゆうき・がい)というキャラクターは、その型破りな作風を象徴する存在でした。煙草を吸い、酒を飲み、サックスを吹いてはギャンブルを趣味とする。生き生きとした彼のキャラクターは、当時絶大な人気を得たといいます。
また、「人間」を描く手法は、何も恋愛に限りません。恋敵であるレッドとブラックは、次第に熱い友情を築いていきます。じっくりと描かれる男同士の関係は必見です。一方の敵組織では、プライドをかけた争いが激化。終盤に描かれたトランザとラディケの一幕には、多くの視聴者が息を飲みました。
このように、「人間ドラマ」に軸足を置いた異色のヒーロー番組として、『ジェットマン』は今もなおファンによって熱く語られています。
時は流れ、2000年。新世紀に登場したのは、『未来戦隊タイムレンジャー』です。その名の通り、西暦3000年の未来からやってきた若者4人と、2000年の今を生きる青年とがチームを組み、時を超えて逃亡してきた犯罪者集団・ロンダーズファミリーを追う、というストーリーが展開されました。
特徴的なのは、その物語の構成。未来人4人と現代人1人で構成されるタイムレンジャーは、敵怪人だけでなく、それぞれが持つ未来という名の宿命と戦っていきます。
「未来戦隊を掲げつつも、実際に未来の世界で撮影することはできない」。そんな当たり前のハードルを超えるために、未来人4人は西暦3000年に戻ることができないという設定が導入され、物語は現代で展開されることとなりました。これにより、自ずと、「未来とどう向き合うか」「未来を切り開く若者たち」というヒューマンドラマに比重が置かれたのです。
大企業「浅見グループ」のひとり息子として、親に人生のレールを敷かれている者。30世紀の未来ですら治療法が確立されていない、難病を患う者。未来人でありながら、現代人と恋に落ちてしまった者。出世欲にかられ、権力を求め続ける者。『タイムレンジャー』には、こういった様々なキャラクターが登場し、「今」と、その先にある「未来」を見据えていきます。
本作が面白いのは、「未来」を単に1000年先の世界として捉えていないこと。タイムトラベル要素をベースとしつつも、本作は、時を超えることをほとんどしません。「未来」は、読み替えれば「将来」であり、個々人を待ち受ける「運命」、そして無限の「可能性」でもある。こういった解釈を行うことで、スーパー戦隊お馴染みのフォーマットを踏襲しながらも、若者の熱い成長譚を展開することに成功するのです。
歴史改変などの時間ものならではのネタを盛り込みながら、『タイムレンジャー』は劇的なクライマックスを迎えます。「未来」を表現するために、「今」を描き切る。タイムトラベル要素を巧妙にヒューマンドラマに傾けた本作は、シリーズにおけるエポックメイキングな一作と言えるでしょう。
フォーマットがあるからこそ
1997年の『電磁戦隊メガレンジャー』の途中で、金曜夕方から放送枠を引っ越したスーパー戦隊シリーズ。今では、仮面ライダーとあわせて、ニチアサ(日曜の朝)としてすっかり定着しました。
『クウガ』から始まった平成仮面ライダーシリーズは、常に「いかにフォーマットを破るか」を意識していたように見受けられます。仮面ライダーらしくない仮面ライダーを提唱することで、結果として、それが「らしく」なる。対するスーパー戦隊シリーズは、「いかにフォーマットと向き合うか」を模索してきたと言えるのではないでしょうか。偉大なる「枠」を崩すのではなく、与えられたフィールドのように捉え、その限られた範囲に収まるように新機軸を盛り込んでいく。
例えるなら、「毎年土地探しから始める平成仮面ライダー」と、「毎年決まった土地にどんな家を建てるかで特色を出す平成スーパー戦隊」、といったところでしょうか。そこに栄光のフォーマットがあるからこそ、他のヒーロー番組とは一味違った「自由度」が生まれるのです。
この平成初期の頃、スーパー戦隊は『パワーレンジャー』としてアメリカでのリメイクも果たします。世代を超え、海を超え、語り継がれていく戦士たちの物語。貴方もその昔、ブラウン管テレビの向こうにその雄姿を観ていたのではないでしょうか。
次回の『平成スーパー戦隊 レッツ・ゴー!レッツ!』第2回では、更にバラエティさを増していく平成中期にフォーカスしていきます。お楽しみに。
映画・特撮好きのブロガー。『別冊映画秘宝 特撮秘宝』『リアルサウンド映画部』『週刊はてなブログ』等に寄稿。
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