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美少女ゲーム界隈と美少女フィギュア市場のカンケイ【3】 ~大エロゲー秋葉原決戦~

公開日:センセイ (べ・一文字)

再度続いてしまいましたが、意図せず結果的に平成を振り返るみたいになってしまい、少なくとも観測周辺では読まれた同年代の皆様の過去を順当にエグっているようで何よりです(性格が悪い)。
ですので新元号になりましたがまた同じような流れで続きます。
繰り返しになりますが、極めて視野の狭い個人的な記憶と経験をベースに語ってみたいと思います。かつ、文中敬称略です。ご了承ください。

 

今でこそ当たり前のようにコンテンツの周辺アイテムの一環として塗装済完成品フィギュアがありますが、PVC塗装済完成品フィギュアが一般化するまでのこの時期二十世紀が終わる頃は、塗装・組立に要する技術が高かったことが一因かと思いますが、美少女フィギュアがオタクコンテンツの中でも敷居の高い物であったことは確かです。
前々回の『ときメモ』ピンズの際に少し触れた『こち亀』左近寺回でも「スターウォーズやバットマンなどの人形はまだ分かるが…美女物はちょっと来ているぞという感じがする」と両さんが語っており、これは当時の世間一般の認識として間違っていないと思います。
そうは言いながらも当時の業界をかなり正確に把握してネタに昇華しているので『こち亀』はやっぱ凄い…、と改めて感じる次第です。


『こちら葛飾区亀有公園前派出所 99巻』秋本治/集英社
「あなたのフィギュア作ります!の巻」より


『こちら葛飾区亀有公園前派出所 102巻』秋本治/集英社
「美少女フィギュアに超夢中?の巻」より

この『こち亀』の美少女フィギュア回は1997年、当時の『エヴァ』『ときメモ』の強さを伺わせますが、この市場にじわりじわりとPC美少女ゲーム界隈が接近しており、秋葉原に直営店が複数開店して“濃い”ユーザーを育む土壌が出来つつあるのは前回書いた通りです。

そのPC美少女ゲーム、エロゲー市場はWindows98発売以降のPC本体の普及と共に益々拡大しており、その時期、世紀末の1999年6月にLeafのPCゲーム『こみっくパーティ』が発売されました。

同人誌即売会を舞台にしたラブコメディで、それまでLeafは関西に拠点を置き開発をしていたのですが、別メーカーで名を馳せていた原画家みつみ美里・甘露樹両人が移籍したLeaf東京開発室の旗揚作がこの『こみパ』。
当代屈指の人気を誇る原画家二人の描く魅力的なキャラクターは、Leafの新機軸として大いに評価され、間を開けずコンシューマーへの移植、TVアニメ化も行われました。
今でもイベント毎に聞こえる同人関係のトラブルは個人レベルから事件レベルまでこの『こみパ』を押さえていれば見た事あるような…となってしまうのが凄いです。
翌年には同名の同人誌即売会が開催(ただしその1回のみで終了)もされました。


Leaf「こみっくパーティー 初回版」

 

間を開けずその翌月にkeyの『Kanon』が発売されます。
コアな層にシナリオの評判が高かったTactics『ONE ~輝く季節へ~』のシナリオ・久弥直樹、麻枝准、原画・樋上いたるらがメインスタッフで、音楽はLeaf起ち上げメンバーでもある折戸伸治と既に名の知られたクリエイターが移籍しての第一作で、発売前から注目を集めていましたが、発売後は「泣きゲー」の先駆けというべきこの物語の登場によってエロゲー業界のユーザー層は一気に拡大されました。

もうこの時期は周囲を見ても寝ても覚めても『Kanon』一色でもう凄かったですね。
発売日当日の秋葉原では、購入特典の「A0判(841㎜×1189㎜)ポスター」を丸めた筒を背中のリュックに差した人が多数見受けられ、その光景から「Kanon砲」なる単語が産まれたのは平成が終わっても語り継ぎたい話です。


key「Kanon 通常版」
「初回限定版」は当時物凄いプレミア化してましてね…

 

この『Kanon』と「泣きゲー」の到来で、PC美少女ゲーム市場はひとつの転換を迎えました。
『同級生2』『ToHeart』以来その傾向が強くなっていた「単純なエロ」ではなく「より深みを持ったキャラクターとの関係」を主題として心情を深く深く描く傾向が強くなり、それに応える様々な形のエンタティーメントとしての物語・作品が急増し、主流となっていくのです。

それを作るクリエイターにも注目が集まり、僭越ながら過去にバスったつぶやきを引用すると、「(この時期のエロゲ業界は)今で言う『なろう』と『pixiv』と『歌ってみた』が融合したハイブリットな商業実験市場がエロゲ業界だった」ので、比喩ではなくありとあらゆる才能がこの市場に集っていたのです。

一例をあげると『Kanon』の翌月に発売されたディーオー『加奈 ~いもうと~』も「泣きゲー」の代表格と言われてますが、シナリオの山田一(=田中ロミオ)は後に『星空☆ぷらねっと』『家族計画』『CROSS†CHANNEL』等の傑作シナリオを手掛け、執筆したライトノベル『人類は衰退しました』はアニメ化を果たしています。
また『星空☆ぷらねっと』の原画を担当したのが成人向け漫画家の師走の翁です。

アニメ化を果たした作品だとこの年に発売したニトロプラス『Phantom -PHANTOM OF INFERNO-』も後年にTVアニメになりますが、この作品のシナリオ・監督の虚淵玄は、以後『吸血殲鬼ヴェドゴニア』『鬼哭街』『沙耶の唄』等の“尖った”ニトロプラス作品でコアな支持を集め、後に『魔法少女まどか☆マギカ』『仮面ライダー鎧武』『楽園追放』等の脚本を担当し、その物語構成は後々のエンタメ界隈に大きな影響を与えてます。

『魔法少女まどか☆マギカ』と言えば、キャラクターデザインの蒼樹うめは漫画連載をもつ前の時期、『みずいろ』等で人気を得たソフトハウス「ねこねこソフト」のWEB連載四コマを手掛けていました。

『Kanon』の主題歌「Last regret」を手がけた北海道の音楽クリエイター集団「I’ve Sound」は一気に知名度を上げ、PC美少女ゲームジャンル中心に主題歌・BGMを多数、本当に多数発表し、パッケージには専用ロゴが付けられるほど。
2005年には武道館ライブを開催するまでになります。

このような例を挙げると枚挙に暇がありません。


「エロゲー文化研究概論 増補改訂版」著・宮本直毅/総合科学出版。
クリエイター事情も網羅しています

 

翌2000年9月にkeyの第2弾『Air』が発売されると「泣きゲー」の大巨頭として空前のムーブメントを巻き起こしました。
全国各地の販売店では午前0時販売が行われ、店舗特典で(ゲームとあんまし関係ない)麦わら帽子(ソフマップ)やオルゴール時計(メッセサンオー)やスポーツタオル(LAOX)にビーチボール(関西方面ショップ)が店舗毎に付いてくると言う……調べていてあぁそうだったなぁ物凄い熱気だったなぁとくらくら来ました。
同年代(30代後半~40代)のオタクの皆さん、古いオタクアイテムを整理して謎の麦わら帽子が出てきた場合、それは十中八九『Air』のソフマップ特典ですよ。

主題歌「鳥の詩」は発売から20年弱の現在でもゼロ年代を代表するアニソンの定番中の定番であり、“国歌”とも称されています。

『Kanon』『Air』含めた「泣きゲー」のムーブメントは、当時のPC美少女ゲーム界隈全体を、当時はその言葉は一般的ではありませんでしたが、今で言う“萌え”市場の最先端であり最大手にまでのし上げた、と言っても過言ではありません。


key『Air』初回限定版
当時家電量販店のチラシに「※18歳以上」の但し書きつきで載った事があります


2010年コミックマーケット夏頒布、同人誌「恋愛ゲームシナリオライタ論集三十人×三十説+」theoria
エロゲーは「語られる」時代でした

 

そしてこの頃、ひとつの同人ゲームがインターネットでの口コミ評判にて存在感を増していました。奈須きのこ・武内崇によるサークルTYPE-MOONの同人ゲーム『月姫』です。

吸血鬼譚と異形の力をメインに据えた伝奇物語は原稿用紙にして五千枚分、CGは400枚うち240枚程は立ち絵グラフィックと言う、企業ではなく個人で製作する同人ゲームとしては圧倒的な容量を持ち、2000年冬コミ(C59)の頒布で800枚を完売するとさらに口コミが口コミを呼び、委託発売を経て人気は不動のものになり、同人でありながら、前述の“萌え”市場の最先端であり最大手でもあるPC美少女ゲーム業界の一角をを占めるに至ります。

派生作品として、Leafキャラの同人2D格闘ゲームを手掛けていたサークル渡辺製作所(後に「フランスパン」)とコラボして共同製作した対戦格闘ゲーム『MELTY BLOOD』も2002年夏コミ(C63)に頒布。単純な格闘ゲームとしてではなく、奈須きのこが書き下ろしたキャラクター毎のシナリオも人気となり、コンシューマー・アーケードへ移植版が幾つも作られることになります。

この『月姫』『MELTY BLOOD』のキャラがコトブキヤからレジンキットで発売されており、その人気がPC美少女ゲーム業界のみではなく広く広く浸透していたかが伺えます。
なおこのコトブキヤ製レジンキットも前回で語ったような「初回限定ピンズ」が付属するのですが、そのピンズのイラストを「コハエース」等の経験値が手掛けてます。
本当にこの時代のエロゲー界隈は現在色んな所で活躍中のクリエイターがポンポン出てきて油断ならんな!
しかしコトブキヤは押さえるべき所を押さえてるなと感心する次第。


「月姫読本PlusPeriod」宙出版


月刊ホビージャパン2003年7月号 コトブキヤ広告
シエル先輩は最後だったんだよなぁ…

 

この時期、塗装済完成品トイ市場は食玩ブームもあり爆発的に数を増やしていました。
ワンコインフィギュア・トレーディングフィギュアが数多く発売されてコンビニに陳列されるまでになり、コアユーザー向け以外の雑誌付録にも塗装済フィギュアが続々付くようになります。

そんな中、ガンダムの塗装済アクションフィギュアとして『MS in Action』シリーズが当初海外向けに発売されると「箱から出して塗装済のアイテムが手に入る」と言う層にヒットして日本国内でも展開、2001年には『GUNDAM FIX FIGURATION』シリーズが展開され塗装済完成品の認知がどんどん広がっていきます。

美少女キャラもこの流れで塗装済完成品が次々に発売され、やはりここでも先陣を切ったのは『エヴァ』で、様々な衣装・シチュ・ポーズでの立体化が行われるようになりました。
この頃話題になった特典としての塗装済完成品フィギュアだと、DVD初回版に1/10フィギュアを付属させた『ラブひな』があったりします。


「フィギュアJAPANマニアックス フィギュアの現在とこれから」ホビージャパン社
「エヴァフィギュアクロニクル プライズフィギュア編」より。
塗装済完成品フィギュアの礎は95年以降『エヴァ』が常に支えています

 

「泣きゲー」で「エロゲーバブル最高潮」と言われてたPC美少女ゲーム業界にも塗装済完成品のフィギュアが浸食していきます。

この時期に「ドルフィー」シリーズ等で美少女可動ドールの基礎を作り上げていたメーカー、ボークスが美少女フィギュアブランド「a-brand」を立ち上げ、PC美少女ゲーム原作のレジンキットの発売を開始、サーカス『水夏~SUIKA~』『D.C. ~ダ・カーポ~』、アージュ『君が望む永遠』、ニトロプラス『吸血殲鬼ヴェドゴニア』等の幅広いPC美少女ゲームジャンルからのキット化を行い、販売は通販・直営店・イベントと極めて限られた機会ながらも非常に大きい存在感を放つに至りました。
そして、塗装済スタチューとしてコールドキャスト製塗装済完成品の個数限定販売も開始します。
数量限定で販売は直営店とWeb通販のみで行われていたので、発売日には建て替え前の秋葉原ラジオ会館前に長蛇の待機列が出来ていました。


月刊ホビージャパン2003年7月号 ボークス広告


ボークスa-brand『白河さやか』塗装済完成品スタチュー
原作はサーカス『水夏 ~SUIKA~』

 

ゲーム本編にフィギュアが付属してきた例では、原画家大槍葦人率いるLittlewitch(リトルウィッチ)が2002年7月に発売したデビュー作『白詰草話 -Episode of the Clovers-』には海洋堂製作の塗装済トレーディングフィギュアのゲーム限定カラー版3体が同梱されました。

2002年12月発売のオービットの新ブランドCLOVER『モルダヴァイト』の初回限定版はヒロイン「ステラ・アリスタ」の1/8塗装済PVC完成品フィギュアが同梱されていました。
ちなみにそのCLOVERは同日に『さよらなエトランジュ』を発売、2作品に同封されている応募券郵送で新作『プラチナウインド』を無料入手できるキャンペーンを実施、さらに同日にオービットの別ブランドROOTから後にアニメにもなった『ヤミと帽子と本の旅人』が発売されてます。
一つのメーカーから実質4本同時発売でうち一本は無料配布、一本は初回限定フィギュア付きってモノスゴくエロゲー業界の盛り上がりっぷりを感じずにはいられない出来事でしたなぁと。

 

商品としてのエロゲー原作塗装済完成品は、先述の『こみパ』でレジンキットのシリーズ化を続けていたコトブキヤからもコールドキャスト製塗装済完成品が発売されていましたが、先にレジンキットで発売されていた「高瀬瑞希 水着ver」がより求めやすいPVC製塗装済完成品で発売されます。
この商品が実質コトブキヤから初のPVC製塗装済完成品美少女フィギュアとなり「コトブキヤは塗装済完成品でもハイクオリティ!」と言うのが「コトブキヤ オールフィギュアカタログ2001-2003」にも書かれていたコピーでした。

その『こみパ』の原画担当みつみ美里・甘露樹両人は『Piaキャロットへようこそ』シリーズ、『バーチャコール』シリーズ等を輩出したF&C(エフアンドシー)から移籍しての新タイトルでしたが、そのF&Cから発売された新作『Piaキャロットへようこそ3』も、コトブキヤからレジンキットの発売、コールドキャスト製塗装済完成品の発売が行われてきましたが、 上記の「高瀬瑞希 水着ver」とほぼ同時期にPVC製塗装済完成品として「高井さやか トロピカルタイプ」が発売されます。今見るとクリエイターが繋いだ縁のように思えます。
ちなみに『Piaキャロ』シリーズは登場キャラの制服がゲーム開始時に選択できることが売りで、登場キャラの様々な衣装が立体化されており、後年多数のメーカーから塗装済み完成品で立体化が行われています。さらに『Piaキャロ3』は『Piaキャロットへようこそ!! 劇場版~さやかの恋物語~』として年齢制限ゲーム初の劇場アニメ化を成し遂げているので、色々な所で歴史に名を残しているタイトルです。

コトブキヤ『高瀬瑞希 水着ver』

コトブキヤ『高井さやか トロピカルタイプ』

続けてコトブキヤから、以前にレジンキットで発売されていた『Piaキャロ3』の「愛沢ともみ ぱろぱろタイプ」「冬木美春 フローラルミントタイプ」「羽瀬川朱美 フローラルミントタイプ」がPVC塗装済完成品で発売されます。

制服の種類が各々異なっていると言う心憎い仕様で、完成度や精度と言う点では現在の技術には及ばないまでも、箱から出すだけでハイクオリティの塗装済完成品が陳列でき、ベース・台座にもキチンと準備されており加工の必要もなく、しかもキットよりも安価と言った特徴で、着実に市場認識が改革されてユーザー層を増やしてゆく土壌形成が行われています。


月刊ホビージャパン2004年2月号 コトブキヤ広告

 

ようやくTYPE-MOONが登場し、PVC塗装済完成品のフィギュアが出てくるようになりましたがまだ続きます。
実際この頃のPC美少女ゲーム関係を語っていたら尋常じゃない文章量になってしまう事が予想されるのですが、今回は控えめに、それらはまた機会があればと言う事で。

 

参考書籍
「こちら葛飾区亀有公園前派出所 99巻」秋本治/集英社
「こちら葛飾区亀有公園前派出所 102巻」秋本治/集英社
「エロゲー文化研究概論 増補改訂版」著・宮本直毅/総合科学出版
「月姫読本PlusPeriod」宙出版
「TYPE-MOONの軌跡」著・坂上秋成/監修・TYPE-MOON/星海社新書
「月刊ホビージャパン 2003年 7月号」ホビージャパン社
「月刊ホビージャパン 2004年 2月号」ホビージャパン社
「フィギュアJAPANマニアックス フィギュアの現在とこれから」ホビージャパン社
「コトブキヤ オールフィギュアカタログ2001-2003」ドリマガ編集部/ソフトバンククリエイティブ
同人「恋愛ゲームシナリオライタ論集三十人×三十説+」theoria

 

 

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