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美少女ゲーム界隈と美少女フィギュア市場のカンケイ【2】 ~年齢制限ゲーム、襲来~

公開日:センセイ (べ・一文字)


連載である事を良い事にいきなり“続く”とかをした上、内容が『たいむましん』ではなくどちらかと言うと『BEEP』寄りで申し訳ありません。しかしご安心ください、今回の内容はもっと『BEEP』寄りになります。
繰り返しになりますが、極めて視野の狭い個人的な記憶と経験をベースに語ってみたいと思います。かつ、文中敬称略です。ご了承ください。
  
 
前回で『ときメモ』と『センチ』と言うギャルゲーの代表格を挙げた上で美少女フィギュア市場の係わりを語った訳ですが、エヴァ以降、90年代後半はTVアニメーション作品がどんどん深夜帯放送に移動し、それまでのアニメの代わりに人気コンテンツの中心で存在感を増したのはゲーム業界でした。
そのゲーム市場の“影”の部分、アダルト要素を含む美少女PCゲーム、俗に言う“エロゲー”は90年代前半から確固たる市場を築き、歴史に残る傑作・名作が多数発売されています。

前回語った『ときメモ』も制作時にはPCゲーム『同級生』を研究したとの事です。その『同級生』は1996年にPCエンジンに移植されて家庭用ゲーム機でのプレイが可能になりましたが、その際に超豪華声優陣によるフルボイス化が図られました。特筆すべきは脇役のガリベン眼鏡男キャラを演じた千葉繁のエキセントリックな演技と、ゲームディスクをCDプレイヤーにかけると最終トラックで主題歌を歌唱&出演した笠原留美・小野寺麻里子・小野綾子・丹下桜らキャスト陣のコメントが聞けるトラックがあるんですが、トリを務めかつこの中で一番下っ端だった丹下桜が他のキャストに声真似でイジられ「もういいです先輩もういいです!」と弱々しく叫ぶのは必聴です。
また初回プレス版のみ、BADエンド時のBGMが山下達郎「さよなら夏の日」のインストルメンタルになると言うどの層に向けたのか判らない特典もあったりします。

 


PCエンジン版『同級生』NECアベニュー
移植は『サモンナイト』シリーズも手がけたフライト・プラン

 


男性キャラ。古川登志男、古谷徹、千葉繁とドラゴンボール臭(ピッコロ、ヤムチャ、ラディッツ)

 

その『同級生』の正統続編である『同級生2』は、大幅にボリュームアップされたシナリオと演出、魅力的なキャラクターでこの頃95~6年前後のエロゲー界隈の話題を占拠してました。この『同級生2』も『エヴァ』同様その影響は大きく、印象的な経験はこの頃にアミューズメントマシンとして「ポスタードリーム」と言うポスターのガチャ自販機が各所に設置され始めているのですが、秋葉原にてロケテスト開始時のポスターは『同級生2』でしたし、本稼働してからも秋葉原では『エヴァ』『ときメモ』『同級生2』でずーっとローテ回していた記憶があります。

『同級生2』はその人気で前作同様移植が行われ、PC-FX版・セガサターン版のみならずプレイステーション版、さらにスーパーファミコン版でも発売、さらにプレイステーション版は登場キャラの塗装済完成品フィギュアが12体付属の豪華限定版が発売される事で話題になりましたが、そのフィギュアの完成度と収納されている「豪華限定版」の外箱の大きさで逆方向に話題になりました。当時インターネットはそこまで普及していませんでしたが、事前情報での画像で多くのコアユーザーが敬遠したのか、この12体フィギュア同梱豪華限定版はその大きさも相成って長らくゲームショップにて鎮座ますことの多い一品でした。
 
 

Windows対応版『同級生2』エルフ
20年以上前のエロゲーが中古とはいえ普通に並んでる秋葉原恐るべし

 

この『同級生』『同級生2』が各ハードに移植されたように、90年代半ばはエロゲー市場が家庭用ゲーム機市場に接近した時代でした。

年齢制限ソフトも発売できるセガサターンでは当初より年齢制限タイトルが多数発売され、中でも前述の『同級生』『同級生2』も作ったメーカー「エルフ」から『野々村病院の人々』がセガサターンにて「X指定(18禁、現在のCERO規定Z区分またはD区分相当)」で発売されます。

フルボイス化を果たしての移植であり、美麗なグラフィックもほぼそのままで、コマンド選択式アドベンチャーの操作性はパッドで違和感がないものであり、修正も最低限。既存のPC版ユーザーのみならずサターンユーザーにも移植エロゲーの価値を大いに高めた一本でした。

 


セガサターン版『野々村病院の人々』エルフ
右下に輝く赤い「X指定」ロゴ

 
 
その後サターンのレーティング関係が変更になり「X指定」作品は発売されなくなりましたが「18推」と書かれている「推奨年齢18歳以上」作品にて様々なゲームが移植されるのです。
特に1997年にイマジニアから発売された『EVE burst error』は、豪華声優陣のみならず、元々のPC版で評価の高かった複数の視点から物語を追うシナリオはセガサターン版でも高い評価を得て、後に複数のリメイクや続編が発売されています。
この作品のシナリオを手掛けた剣乃ゆきひろは移植版には関わっておらず、発売元のシーズウェアを退職してエルフに移籍しており、そのエルフでの作品『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』はシステムとシナリオの融合が図られた美少女ゲーム史に残る作品で、「様々な要素が一つにつながって大団円へ向かうドラマはまさに圧巻」(「エロゲー文化研究概論 増補改訂版」)「すべてがゲーム性に帰結するAVGの金字塔」(「ゲーム批評 1997年9月号」)とプレイした人間に何かを残す大傑作です。
昨年に20年の時を超えてPS4版、PS VITA版にリメイクが行われた上、先日Nintendo Switch版も発売。そして2019年4月現在テレビアニメが放送中です。当時どれだけの若者に影響を与えたのかがこれらのリメイクだけでも伺えようというものです。

そして翌年にセガサターン版で『YU-NO』がフルボイス化等を加えて移植され、大絶賛を以って迎えられることでこの二つの市場のユーザーの境界線は極めて薄いものになってゆくのです。個人的にこのフルボイス化で一番すごいと思ったのが校医・武田恵理子を演じた久川綾の、物語終盤であの「発音が複雑すぎて完全に聞き取れない」本名を名乗るシーンが聞ける事です。

 


セガサターン版『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO 初回限定版』エルフ
これから体験できる未プレイの方が羨ましい
ちなみに「石棺パズル」を前情報全く無しでしたが一晩かけて解きました。

 

この時期の「美少女ゲームが家庭用ゲーム機市場内で拡大」の一例として、ゲーム情報誌「ファミ通(1995年12月までは「週刊ファミコン通信」)」に連載されていた吉田戦車の四コマ漫画『俺ボンボン』を上げます。
1992~1998年にかけて連載されていたこの四コマ漫画は、実在のゲームを題材に吉田戦車の不条理ギャグが炸裂しており、単行本『はまり道』帯の文を任天堂の宮本茂プロデューサーが担当し「マリオのイメージが壊れるので抗議しようと思ったが、うかつにもその前に笑わされてしまった」のような事が書かれる程なので、ゲーム本編を知っていればニヤリとする事請け合いです。

その連載の1995年頃から『ときメモ』ネタが多くなり、単行本『ゴッドボンボン』前書きにて「『ときメモ』プレイのためだけの山籠もりをした」と書かれるほど。
続刊の単行本『ニューはまり道』では『ときメモ』に加えセガサターンの移植ギャルゲーの登場頻度がかなりアップしており、前書きにも「『ときメモ』ネタ多いな」と書かれています。

 


『ニューはまり道』吉田戦車/アスペクトより。
全て一コマ目でこれ以外にギャルゲネタが大量にあります 

 

と、ここまで様々なタイトルを個々のインパクトで語っていきましたが、前回含め順序はかなり前後しています。主だったものを時系列に沿って並べると

1994/5 『ときめきメモリアル』PCエンジン版発売
1994/11 セガサターン発売
1994/12 プレイステーション発売
1995/1 『同級生2』DOS版(PC版)発売
1995/10 『ときめきメモリアル ~forever with you~』プレイステーション版発売
1995/10 『新世紀エヴァンゲリオン』TV放送開始
1996/4 『野々村病院の人々』セガサターン版発売
1996/9 『サクラ大戦』セガサターン版発売
1996/12 『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』DOS版(PC版)発売
1997/1 『EVE burst error』セガサターン版発売
1997/7 『同級生2』セガサターン版発売
1997/8 『同級生2』プレイステーション版発売
1997/12 『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』セガサターン版発売
1998/1 『センチメンタルグラフティ』セガサターン版発売

となっており、これまで語ってきた内容のドッグイヤーっぷりと濃度に眩暈がしそうです。

 

ここまで来てあれ美少女フィギュア市場は?とお思いでしょうが、このエロゲー市場がコンシューマ市場に接近する時期に、立体方面にじわじわと浸透していった美少女ゲームブランドがありました。

それが「葉っぱ」こと「Leaf(リーフ)」です

 


Windows版『To Heart』リーフ
Windowsの普及にものすごく貢献したエロゲ

 

兆候として、SFCのサウンドノベルにヒントを得た「ビジュアルノベルシリーズ」の『雫』『痕(きずあと)』にて、サブカル風な内容と併せて、ディープな人気を獲得していました。
そんなビジュアルノベルシリーズの第三弾として1997年5月に発売されたのが、前二作と雰囲気をガラリと変えた学園ラブコメもの『To Heart(トゥハート)』。
個性的で魅力的なヒロイン達と織り成すハートフルな物語は感動を呼び、その後のエロゲー市場の方向性を決定したと言っても過言ではない位の伝播力、影響がありました。

コンシューマーゲームへはエロゲー移植花盛りだったセガサターンではなくプレイステーションへの移植が1999年3月に行われましたが、当時のプレステは年齢制限ゲームの直接移植を許可していなかったので、プレステ版は『ToHeart』とタイトルにスペースが無いことは豆知識のヒトツ。
広告に京本政樹を採用し、プロモーションとしてJR山手線の全面広告車両の運行が行われ、あのトイザらすでも商品の扱いが行われ、時代の変化に思いを馳せたものです。

『To Heart』はTVアニメ化も発表された時期に一つの商品が誕生します。それがユージンによるカプセルトイフィギュア『To Heart』シリーズの発売です。
全高約10センチ弱のガチャポンながら彩色済で特徴をとらえており、マニア心をくすぐる様にポーズ違いや髪型違いさらにはパンツの色違いでカプセルトイに「レア」の概念を導入する等で大人気に。
シリーズが4弾まで進んだ上、主人公(男)の浩之ちゃんまでラインナップに入るという素敵な暴走っぷりも見せてくれました。
 
 


ユージンのカプセルトイ。
シーズン後期になると造形もこなれていきます。委員長が二体居る理由は聞かないように。

 

この頃からワンダーフェスティバルのアマチュアディーラー出展作品でもLeafキャラを見かけるようになり、月刊ホビージャパン誌のアフターレポートにて「葉っぱ旋風?」と紹介されています。
これは当時の編集部にユーザーが居たと推測していますが、ワンダーフェステイバルのような当日版権の立体イベントでは、同人誌と異なり版権元から許諾を得られるかどうかは商品が出せるかどうかの瀬戸際になるので、許諾が通りやすい版権として選択され、「PCゲームの版権元は、自社コンテンツをゲームファンに知ってもらおうと、GK即売イベントなどにおいても積極的に版権許諾を実施する傾向にあります。それが、フィギュア原型師のモチベーションの後押しとなっているのは間違いなさそうです(「ホビージャパンMOOK オールザットフィギュア2000」)と解説されており、これらの人気が後々の下地になっていきます。

商品としての立体も、早々に海洋堂が1/5スケールのレジンキットを発売して人気に応えています。ただし『ときメモ』のようにシリーズ化とはならずでした。ちなみに『To Heart』のレジンキットが出た頃はまだ『ときメモ』レジンキットの3rdシーズンが展開中だったりします。

 


月刊ホビージャパン1998年6月号掲載、海洋堂広告。
「1月のワンフェスで先行発売」に注目

 

その他のメーカーとしては『エヴァ』以降積極的に美少女フィギュアのレジンキットを発売していた模型メーカー「壽屋(コトブキヤ)」がアニメ化以降ですが『ToHeart』のレジンキットを発売しました。
「初回特典ピンズ付き」とモノスゴく見覚えのある売り方をしていたのですが、この事がどんなユーザーや市場を対象にしていたかが伺えます。このシリーズは爆発的なヒットとまでは言えないものの、着実に認知度を高めてゆき、その後もコトブキヤから美少女ゲームを原作としたレジンキットが発売されていく切っ掛けともなりました。

 


コトブキヤ製『1/8 マルチ』初回版ピンズまでまぁ何処かで見たような

 

この頃のフィギュア市場、ひいては玩具市場も大きな変化を遂げてました。
1997年に『フィギュア王』(ワールドフォトプレス)、『ハイパーホビー』(徳間書店・現在は休刊)とホビー専門誌が相次いで創刊されたことで塗装済み完成品の認知度がどんどん上がっていきました。
さらにフルタ食品の「チョコエッグ」の特典フィギュアを海洋堂が担当し、そのハイクオリティで注目を集めると同時に「食玩」ブームが起き、競合各社のクオリティ向上を引き起こし、多種多様な立体が市場を賑わします。
書籍・単行本の特典、雑誌付録でフィギュアを付けるケースが非常に多くなり、高速通信回線の普及もあってインターネットのホームページで様々な情報を得ることが出来るようになりました。
数年前では考えられないくらいに、塗装済完成品を入手することが容易になってきたのです。
 
その潮流を受けてか、「レジンキットで発売されていた商品を塗装済完成品として発売する」と言う事が積極的に行われていきます。海洋堂は『ときメモ』シリーズ、壽屋は『To Heart』シリーズで展開していきますが、現在発売されているようなPVC(ポリ塩化ビニル)製ではなく、コールドキャスト(ポリストーン)製の塗装済完成品フィギュアが主で、どうしても脆く破損しやすいかつ塗装技術もそれなりではあったのですが、「食玩」ブームもあり、拡大してきた塗装済完成品を求める層には十分応えていたと思います。

 


月刊ホビージャパン1999年6月号掲載、海洋堂広告。
「塗装済」ってのがヒトツの売りだったのです。

 


月刊ホビージャパン1999年12月号掲載、壽屋広告。

 

また、この時期は大手ガレージキットメーカーが秋葉原に直営店を開店し始めたことも挙げておきます。
元々秋葉原ではソフマップ等でガレージキットを扱う店舗が少なからずあったのですが、海洋堂が神田川を越えた「肉の万世」近くにギャラリーを兼ねた「ホビーロビー東京」を開店、後にラジオ会館内に移転、ドールシリーズを展開してきたボークスもラジオ会館内に直営店を構えました。
壽屋は1998年に秋葉原の北沢ビル7Fに直営店を、さらにラジオ会館内に2号店を開店し、1階にも開店して後に統合しています。
ホビーを扱う街としての秋葉原がこの時期に土壌を作っているのは特筆すべきです。
折しもWindows95~98の自作PCブームと相成って、秋葉原が「自作PC」「エロゲー中心のPCゲーム」「模型メーカー直営店」を一気に抱えることになり、より濃いぃオタクを育む下地作りが為されていたとも言えます。

 


月刊ホビージャパン1997年11月号掲載、海洋堂広告。
この地図の場所は今だと「いきなりステーキ」の隣です

 


「コトブキヤ オールフィギュアカタログ2001-2003」より。
当時の北沢ビル1Fにはメッセサンオー新作PCゲーム売場がありました

 
 
  
二十世紀がようやく終わろうという頃になりましたが、予想よりはるかに長くなってしまったのでまだ続きます。
 
 
参考文献
「エロゲー文化研究概論 増補改訂版」著・宮本直毅/総合科学出版
「ゲーム批評 1997年 9月号」マイクロデザイン出版局
「ニューはまり道」著・吉田戦車/アスペクト
「月刊ホビージャパン 1997年11月号」ホビージャパン社
「月刊ホビージャパン 1998年 6月号」ホビージャパン社
「月刊ホビージャパン 1999年 6月号」ホビージャパン社
「月刊ホビージャパン 1999年12月号」ホビージャパン社
「ホビージャパンエクストラ 1998年春の号」ホビージャパン社
「ホビージャパンMOOK オールザットフィギュア2000」ホビージャパン社
「コトブキヤ オールフィギュアカタログ2001-2003」ドリマガ編集部/ソフトバンククリエイティブ

 

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