デバッグ・マジック! vol.15 ~ありがとう!!!『ニューカペナの街角』編~
By まつがん
『ニューカペナの街角』も発売から3ヶ月が経過し、モダン専のプレイヤーからすれば「そろそろ新セット来ないかな……」といった頃合いと思われるが、皆様いかがお過ごしだろうか。
来月末には『団結のドミナリア』の情報も出ていると思われるので、ひとまずこの1ヶ月は擦りに擦り散らかして骨だけになった『ニューカペナの街角』から取れる出汁でどうにか飢えをしのいでいくことにしよう。
■ 1. 4Cの没落と装備シュートの反撃
2022年6月~7月にかけてのモダン環境のメタゲームは、以下のようなものだった。
Tier 1 |
Tier 2 |
前回と比較して最も顕著なのは4Cの没落だろう。”kanister”ことPiotr Glogowskiが4Cの弱点を指摘したことによる影響か、あるいは青赤ラガバンの《ドラゴンの怒りの媒介者》が《帳簿裂き》に差し替わってさらなるパワーアップを果たしたことが大きかったのかはわからないが、いずれにせよメタゲームの登場人物がそう変わっていないにもかかわらず4Cだけが徐々にその立場を落としていったのがこの一ヶ月の動きだった。
これにより「《時を解す者、テフェリー》の減少→続唱2種のポジションアップ」と、「《孤独》の減少→装備シュートのポジションアップ」という2つの流れができあがり、最終的に4Cとちょうど入れ替わる形でTier 1に躍り出たのが装備シュートである。
装備シュートというデッキは白単/白青/白黒など細かい部分にバリエーションが存在する上に、スペル構成やサイドボードも人によって異なってくる。そしてそのランダムさ自体がこのデッキに対して「受ける」という行動に裏目を発生しやすくさせており、結果として「攻め合う」以外の選択肢がないのが実情だ。
ただそれだけ強力なデッキであっても、装備シュートは4Cに比べると意識のされ具合やサイドボードの対策カードの数によってポジションが変動しやすいデッキではある。もう一つのTier 1である青赤ラガバンの意識もこれからは向いてくるだろうし、そうなると次回までにはメタゲームにまた新しい変化がありそうという意味で、4Cが君臨し続けるよりは良い方向の変化と言えるかもしれない。
2022 Magic Online Champions Showcase Season1 Champion
プレイヤー名:Will Krueger
2《乾燥台地》
2《血染めのぬかるみ》
1《耐え抜くもの、母聖樹》
1《燃えがらの林間地》
2《ドワーフの鉱山》
1《森》
5《山》
2《沸騰する小湖》
2《隠れた茂み》
3《踏み鳴らされる地》
3《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》
4《樹木茂る山麓》
4《桜族の長老》
4《イリーシア木立のドライアド》
4《原始のタイタン》
Magic Onlineにおいて各フォーマットで開催された過酷な予選を突破した8人のプレイヤーだけで開催される、オンラインプレイヤーの頂点を決めるトーナメント、MOCS。その2022年のシーズン1で優勝したのは強豪“Xwhale”ことWill Kruegerだった。
彼のモダン部門のデッキ選択が秀逸で、当時最強と目されていた4Cオムナスを持ち込むプレイヤーが多いと踏んで、ガンメタデッキであるタイタンシフトを持ち込んだのだ。
4Cが多く、かつアグレッシブなコンボが少ないフィールドでこそ活躍するデッキなので、現状のメタゲームにはあまり合致していないが、同様に少人数制の大会などに参加する場合には、検討してもいい選択肢と言えるだろう。
Modern Challenge #12439758 1st Place
プレイヤー:Phill_Hellmuth
2《乾燥台地》
1《血の墓所》
3《血染めのぬかるみ》
1《耐え抜くもの、母聖樹》
4《ドワーフの鉱山》
1《ケトリアのトライオーム》
4《沸騰する小湖》
1《冠雪の山》
2《蒸気孔》
1《踏み鳴らされる地》
3《樹木茂る山麓》
1《ジアトラの試練場》
4《残虐の執政官》
2《耐え抜くもの、母聖樹》
2《神々の憤怒》
1《激しい叱責》
1《引き裂かれし永劫、エムラクール》
2《狼狽の嵐》
2《活性の力》
2《神秘の論争》
3《夏の帳》
以前も紹介した《不屈の独創力》コンボが、新たなスペル構成にブラッシュアップされて再びメタゲームに食い込んできた。
これまでのジェスカイ/4C型の《不屈の独創力》デッキと大きく異なる点は、《時を解す者、テフェリー》の不採用と《鏡割りの寓話》と《探検》の採用だ。
この構成の強みは、《残虐の執政官》のハードキャストが圧倒的に現実的であること。《鏡割りの寓話》のトークンは放置すれば毎ターン着実に宝物・トークンを生み出すし、《呪文貫き》のような賞味期限のあるカウンターや引きすぎてしまった余分な《残虐の執政官》、《レンと六番》で回収した土地なども手札交換できるので、ムラなくマナを伸ばすことが可能となる。
そしてこうしたミッドレンジ気味のプレッシャーに耐えかねて行動を起こせば《ドワーフの鉱山》からの《不屈の独創力》コンボが決まってしまう。ダブルバインドを上手く利用したミッドレンジ・コンボとして、今後も一定の勢力を保ちそうだ。
Modern Challenge #12429716 4th Place
プレイヤー:susurrus_mtg
《孤独》の登場は相対的なエルドラージのポジションを後退させ、『モダンホライゾン2』で何ら強化のなかったエルドラージトロンをメタゲームの大外へと追いやってしまった。が、メタゲームを見ればわかるように先手2ターン目に《虚空の杯》を「X=1」で置けるコンセプトの需要は依然として高いので、エルドラージに代わるフィニッシュ手段さえあれば、再びメタゲームに返り咲く可能性はもちろんあった。
そこでそのフィニッシュ手段としてプリズンという新たなコンセプトへと再構築したのがこちらのデッキで、いわば「(《虚空の杯》の都合上) 1マナのカードを使わないランタンコントロール」とも言うべき構造となっている (ただし先置きする《探検の地図》や《ウルザの物語》でサーチする用のアーティファクトは別)。
ネタデッキにばかり使われると思われがちだが、「特定のカード2~3種を揃える」という点に関しては《血清の粉末》はモダン環境に残された最後のバグと言ってもいい出力があり、いつまたそのポテンシャルが爆発するかわからない。強力なアーティファクトが新カードとして出た際には、このデッキの存在を思い出すようにするといいだろう。
■ 2. もう限界!!!『ニューカペナの街角』でバグを探そう
もう4回目だぞ!バグもクソもあるか!!!!!
……と早々にブチ切れてしまいたいのは山々だが、それが仕事とあってはそうもいかない。
それに、新たなアイデアは限界の向こう側でこそ見つかるかもしれないのだ。
他のフォーマットで実績を残しつつもモダンではいまいち花開けていないカードも、試すまでもないと切り捨てたカードも、まだまだたくさん存在する。
まだ見ぬ可能性を信じて、『ニューカペナの街角』に隠されたバグをデバッグ (発見・解明) していくことにしよう。
◇《断れない提案》
「モダンで活躍するカード」と「そうでないカード」とをふるい分けるための最も有効な条件は、やはり「マナコストが軽いこと」だろう。
特に1マナ以下ならば、どんな効果であっても一度はデッキを考えてみる余地がある。
《断れない提案》。非クリーチャー呪文ならば無条件でカウンターできる代わり、宝物・トークンを2個も献上してしまうこのカードでデッキを作るとしたならばどうするか?
《瞬唱の魔道士》で再利用してカウンターしまくる……?No。
あるいは相手の宝物・トークンの起動を封じるカードと組み合わせる……?それもNo。
答えはこれだ。
0マナのカードと組み合わせたら2ターン目に4マナ出せるのでは???
モダンにおいて2ターン目に4マナを生み出す方法は、実は意外にも列挙できるくらい限られている。「《エルドラージの寺院》を2ターン連続でセットする」「《捨て身の儀式》系スペルを重ねる」「《敏捷なこそ泥、ラガバン》+《モックス・アンバー》」「《精力の護符》2枚+お帰り土地」などがその一例だが、「0マナ呪文+《断れない提案》」の組み合わせは単にそれらの一群に加わったというだけでなく、一つ一つのカードが有用でありながら同様の結果を実現できるという点で他の手段よりも優れている。
特に《はらわた撃ち》+《断れない提案》に関しては、除去とカウンター構えで相手の行動を見てからエンド前にマナ加速として唱えることも可能であり、非常に噛み合った組み合わせだ。
ただこれだけに頼ったコンセプトだと《断れない提案》を引けないときに弱い動きしかできないので、他の手段として「《東屋のエルフ》からの《楽園の拡散》」のルートも採用しておくことで、「2ターン目4マナ」をより安定させることが可能となる。
問題は「2ターン目4マナ」から何をするかだが、ここではモダンの4マナのカードの中でも最も汎用性の高い《大いなる創造者、カーン》をまずは採用することとしよう。《液鋼の塗膜》とのランデスコンボは早いターンであればあるほど強力だし、万が一後手を踏んでもサイドボードから対処手段を探してこれるのが強みだ。また、一応《断れない提案》を手打ちした際にも宝物・トークンを封じられるという役割がある。
もう一種類としては最初は《創造の座、オムナス》を考えていたが、「2ターン目4マナ」が実現可能な方法の中でカード2枚だけだと《断れない提案》以外のパターンではどうしても4色を生成することができなかったので、代わりに「《先駆ける者、ナヒリ》と《引き裂かれし永劫、エムラクール》のパッケージ」を採用することにした。こちらも《大いなる創造者、カーン》ほどではないにせよ攻撃と防御を兼ねられる器用なプレインズウォーカーだ。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
デッキビルド:まつがん
4《東屋のエルフ》
4《氷牙のコアトル》
4《石鍛冶の神秘家》
1《引き裂かれし永劫、エムラクール》
2ターン目に4マナ出すだけで勝てるなら誰も苦労はしないのでは???
……という冷静なツッコミをしたくなるコンセプトだが (現に《捨て身の儀式》《発熱の儀式》で既存のカードプールでもコンセプト自体は半分再現できていた)、それはそれでちょっと尖ったバント石鍛冶として振る舞えるという点が意外とアリかもしれない。ただ《はらわた撃ち》が単体で機能する前提であり、Yawg-Chordなどタフネス1のクリーチャーが多いメタゲームでなければゴミみたいな大量の《はらわた撃ち》がハンドに来て怒りのあまり自分のはらわたが爆発して終わるだけになってしまうので気を付けよう (?)。
◇《大勝ち》
モダンで活躍できそうなカードの基準には、「既に存在するプレイアブルカードの2種類目」というのもある。同じカードを8枚積めるなら、その時点でコンセプトになりうるからだ。
ならば、同じカードを16枚積める時点でもはやそのデッキは最強と言っても過言ではないかもしれない。
《大勝ち》。スタンダードにおいては《予想外の授かり物》が《黄金架のドラゴン》との組み合わせで活躍していたところに2種類目として登場し、《溺神の信奉者、リーア》《自身の誇示》と合わせて疑似的なストームデッキを作り上げたが、モダンにまでカードプールを広げれば、似たようなカードがさらに他に2種類も存在する。
《海賊の略奪》、さらに《戦利品奪取》だ。
だが、こんなクソ重ドローカードが4種類もあるというだけでゲームに勝てたら苦労はしない。これらをコンセプトにするなら、それなりの介護が必要となる。
そう。
2マナ軽くしたらタダなのでは???
《戦利品奪取》や《ゴブリンの壊乱術士》といったクリーチャーを2体並べることができれば、これらの呪文は実質フリースペルとなり、引き続ける限り連鎖させることが可能となる。
そして呪文が連鎖するということは、必然的に例のコンセプトに突入することを意味している。
これらの呪文を《炎の中の過去》で再利用しながらライブラリーを掘り進め (《炎の中の過去》で減る分のマナは《捨て身の儀式》《魔力変》で補充できる)、デッキに1枚差しの《ぶどう弾》を引き込めばフィニッシュだ。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
デッキビルド:まつがん
また「ストーム」じゃねーか!!!
仕方ない。「新セットのデッキに困ったら『ストーム』を組め」と言いたくなるくらいに簡単にデッキになってしまうのが「ストーム」というコンセプトの強さなのだ。しかもコンボをスタートするには《ゴブリンの電術師》などのマナ軽減クリーチャーが場に2体必要なので、1体でも除去られたら即脱糞する羽目になるう〇こ生成機である。使用する際にはオムツを履いておくと良いだろう。
◇《帳簿裂き》 (?)
「ストーム」まで持ち出してしまったら手詰まりの証である。だが、毎回3個のクソデッキ製作をノルマとしている以上、どうしてももう一つデッキを作る必要があった。
ならば、禁忌の手段に手を染めるしかない。「既に強さが証明されているカード」を使って、クソデッキを作るのだ。
《帳簿裂き》。「現代の《タルモゴイフ》」と呼ばれるほどのこのカードには、意外な弱点があった。
それは2マナであることだ。2マナのクリーチャーは1マナで除去されるとテンポをとられてしまう。それはよろしくない。
ならばどうするか?
1ターン目《虚空の杯》から2ターン目に出したら最強では???
「謀議」という軽い呪文の連打と相性が良い能力ともう既に矛盾しておりクソの予感しかしないが、誰も試したことのない組み合わせだからこそ新デッキの生まれる余地があるかもしれない。
前回も活躍した《照光の巨匠》も《虚空の杯》設置後に着地させたいクリーチャーで、これらのクリーチャーに《警備の抜け道》をエンチャントすれば《絡み森の大長》をはじめとする大量のゴミを「謀議」で不法投棄できるという寸法だ。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
デッキビルド:まつがん
とんでもない初手来るけどちゃんと回した???
昨今の円安のせいでMagic Online上で《帳簿裂き》と《孤独》が異次元の値段に到達したためもちろん回していないというのみならず、《警備の抜け道》が実質的に毎ターン「謀議」できるクリーチャーを作り出せることを考えるとどう見ても能動的に「謀議」できない《帳簿裂き》じゃなくて「二段攻撃」持ちの《典雅な襲撃者》とかブロックされない《怪しげな密航者》で良くね???となってしまったので例によってこの段落は全部ウソである。
まあその場合はこの段落タイトルが実は《帳簿裂き》じゃなくて《警備の抜け道》だったってことで……。
◇その他残飯
さて、どうにかノルマはクリアした (?) わけだが、4ヶ月連続で同じセットのデッキを作り続けることの苦しみがどれくらいのものだったのかを皆さんにもせっかくなので何となく体感してもらうべく、他に作ったクソデッキたちの一部をダイジェスト……というか、dieジェストでお届けしよう。
「《希望の源、ジアーダ》って天使並んでたらものすごい修正値にならね???」→「せや!《霊気の薬瓶》4枚と天使36枚でデッキ組んだろ!!!」
デッキビルド:まつがん
4《鱗粉の変わり身》
4《セゴビアの天使》
4《希望の源、ジアーダ》
4《セラの報復者》
4《不確定な船乗り》
4《若年の戦乙女》
4《鼓舞する監視者》
4《海門の擁護者、リンヴァーラ》
4《輝かしい天使》
4《霊気の薬瓶》
リミテッドじゃねーんだぞ!!!
「《殺しの競技者》ってモダンで何種類目の1マナパワー2クリーチャーになるんだろうか……」→「せや!1マナ2打点の吸血鬼を集めたらデッキになるのでは???」
デッキビルド:まつがん
ガリガリ君!ちょっとは筋肉付けて!!!
「《強請る大入道》の存在意義ってなんだ……?」→「せや!パワーが無駄がデカいことをコンセプトにしたろ!!!」
デッキビルド:まつがん
4《極楽鳥》
4《下賤の教主》
4《貴族の教主》
2《秘宝のゴーレム》
4《朽ちゆくレギサウルス》
4《強請る大入道》
1《原初の飢え、ガルタ》
4《引き裂かれし永劫、エムラクール》
モダンで《グレートヘンジ》設置なんて悠長なことしてたら死んでるわ!!!
「こんなクソ重レジェンド吸血鬼どうやって出すねん……」→「せや!《真紅の花嫁、オリヴィア》様と結婚させたろ!!!」
デッキビルド:まつがん
出しても別に勝たん!終了!!!
■ 3. 終わりに
最後は駆け足になってしまったが、『ニューカペナの街角』を巡るこの4回の連載については、もちろん苦しいことばかりではなかった。
前回の「《新生化》+《悪魔的な客室係》」は将来もう1体多くクリーチャーを出せるカードが出れば真剣に芸術になれる可能性を秘めているし、前々回の「《屍体洗浄屋》コンボ」も久しぶりに時間をかけて一つのコンセプトを練り上げる体験ができた。
一つのセットをここまで深く掘った経験もこれまでなかなかなかった (リミテッドを一回もやってないのにレア以上の効果が大体わかるなんてセットはそうそうないだろう) ので、貴重な経験をさせてもらったことは間違いない。
そのことに改めて感謝の意を表明して、今回は筆をおくことにしよう。
ありがとう、『ニューカペナの街角』。
次なるセットである『団結のドミナリア』は2022年9月9日 (金) 発売予定だ。
ではまた次回!
クソデッキビルダー。独自のデッキ構築理論と発想力により、コンセプトに特化した尖ったデッキを構築することを得意とする。モダンフォーマットを主戦場とし、代表作は「Super Crazy Zoo」「エターナル・デボーテ」「ステューピッド・グリショール」など。Twitter ID:@matsugan
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