デバッグ・マジック! vol.7 ~『イニストラード:真紅の契り』編~
By まつがん
いよいよ今週末、11月19日 (金) には新セット、『イニストラード:真紅の契り』が発売となる。
ここ一か月のモダン環境の様子もおさらいしつつ、カードリストを開いて早速最新カードをチェックしていこう。
目次
■ 1. 「8強」の崩壊と新たなる脅威
10月から11月にかけてのモダン環境は、以下のようなメタゲームのもとで展開されていたようであった。
Tier1 | 青赤ラガバン 装備シュート 4Cブリンク/4Cオムナス 青白/ジェスカイコントロール |
Tier2 | ティムール続唱 死せる生 バーン アミュレット ライブラリーアウト |
前回『デバッグ・マジック! vol.6 ~もっと!『イニストラード:真夜中の狩り』編~』との比較で言えば、「ジャンドラガバン」がポジションを失って「青赤ラガバン」に統合されたのと「続唱」・バーンが後退したことによる、「8強」の崩壊が主なトピックとなる。
この原因は、主に「脅威の単調化」による「《孤独》コントロールの洗練」にあるだろう。コントロールは見るべき相手を見据えてデッキを構築するが、いわゆる「押しつけ」のコンセプトで通用するレベルのものが「ラガバン」「装備シュート」「続唱」「バーン」の4択にほぼ限られてしまっている現状は、コントロールにとってこれほど楽なことはない。それゆえに、生き残った脅威に対してより最適化された形でリストを洗練させることが可能となった。
無論、それは「ラガバン」「装備シュート」「続唱」「バーン」たちが他の脅威となるコンセプトとなる駆逐してしまったことが原因なので、それらのデッキにとってはある意味で自業自得とも言える。
他方、それに伴ってコントロールがケアしていない新たな脅威を突きつけようという勢力が登場するのもまた当然の道理であり、「アミュレット」や「ライブラリーアウト」が「8強」の崩壊とともにTier 2にあがってきたのはそうした側面があるからだと捉えることができる。
死角の少ない「《孤独》コントロール」2種がトップメタに君臨している以上、不意を突ける角度は限られている。「アミュレット」や「ライブラリーアウト」は、その狭い角度を有している数少ない「押しつけ」のコンセプトであるがゆえに戦えているのだ。
さて以下では、ここ1ヶ月の間に活躍した要注目のデッキタイプを紹介しておこう。
プレイヤー名:bigjc00
4《森》
1《繁殖池》
1《吹きさらしの荒野》
4《セレズニアの聖域》
4《シミックの成長室》
1《ボロスの駐屯地》
1《グルールの芝地》
2《ギャレンブリグ城》
2《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》
2《トレイリア西部》
2《魂の洞窟》
4《ウルザの物語》
1《崩壊する痕跡》
1《軍の要塞、サンホーム》
1《処刑者の要塞》
1《光輝の泉》
1《ヴェズーヴァ》
2《樹上の草食獣》
4《イリーシア木立のドライアド》
1《迷える探求者、梓》
4《原始のタイタン》
既存のデッキタイプが《ウルザの物語》によって強化された形。《ウルザの物語》が環境で幅を利かせていることで《広がりゆく海》《高山の月》《血染めの月》などの採用数が増えているタイミングでは逆風だが、そうでなければ鋭角なコンセプトもあってどんなデッキ相手でも生半可な回りは貫通するほどの破壊力を持つ。《大いなる創造者、カーン》を採用するべきかどうかも含めて、メタゲームを見ながら最適なタイミングで選択したいデッキだ。
プレイヤー名:Sodeq
《孤独》が蔓延する環境へのアンチテーゼとなる純スペル単コンボ。最速2ターン目《血染めの月》のムーブを無理なく搭載できている点が強み。環境における《対抗呪文》の枚数が増えているのは向かい風だが、メタの変わり目には忘れずに選択肢に入れておきたいデッキタイプと言える。
プレイヤー名:moksha
1《森》
1《島》
1《平地》
1《繁殖池》
1《神聖なる泉》
1《聖なる鋳造所》
1《蒸気孔》
1《踏み鳴らされる地》
1《寺院の庭》
1《ケトリアのトライオーム》
1《ラウグリンのトライオーム》
4《溢れかえる岸辺》
4《霧深い雨林》
2《沸騰する小湖》
2《吹きさらしの荒野》
1《孤立した砂州》
4《虹色の終焉》
4《対抗呪文》
3《表現の反復》
3《否定の力》
2《至高の評決》
4《レンと六番》
4《時を解す者、テフェリー》
3《精神を刻む者、ジェイス》
2《ドミナリアの英雄、テフェリー》
vol.4で紹介した「エレメンタル」とvol.6で紹介した「4Cブリンク」から派生して、両者の間をとったようなコンセプト。ぶっちゃけて言えば「青白コントロールに《レンと六番》入れた方が強くね?」的な思想のデッキだが、ライフとマナベースの問題を除けば確かにその通りなので何も言えない。《広がりゆく海》をメインに積んでいない点が大きな差だが、その差を突けるデッキは前述の「アミュレット」くらいなため、真っ当な手段で打倒するのはかなり厳しいと言える。
■ 2. 『イニストラード:真紅の契り』でバグを探そう
ここ最近のセットにはどれも言える傾向だが、『イニストラード:真紅の契り』も一見、モダン向けのセットではない。
だがそれは、この連載では繰り返し伝えていることだが、デバッグしがいがあるということだ。
どんなカードも、デッキができるまでは砂漠に埋もれた砂粒の一つでしかない。その素質を見出して取り上げ、丹念に磨いて宝石に仕上げるのがデッキビルダーの仕事だ。
というわけで今回も広大な砂漠に飛び出し、新たなデッキを発見・解明していくことにしよう。
◇《錬金術師の計略》
『イニストラード:真紅の契り』のカードの中で最もモダン向きの効果をしたカードとして私が見出したのは、このカードだった。
《錬金術師の計略》。「切除」コストを支払わない限り、わずか3マナで追加ターンを得られる代わりにその追加ターンの終了時には強制的に敗北してしまうというハイリスクハイリターンなカードだ。
だが、一見ただの《最後の賭け》でしかないこのカードをどのように使えばいいだろうか?
この点、私は似たカードを大量に積める点に着目した。そう、すなわち。
《栄光の好機》だ。このカードも《錬金術師の計略》と同様、追加ターンを得るが次のターンには強制敗北してしまう効果を持っている。
また、《栄光の幕切れ》は相手ターンのアップキープや相手が唱えた呪文にスタックして唱えることで相手のターンをキングクリムゾンして実質追加ターンを得るといった使い方ができるカードである。
とくれば、これら3種の3マナ実質追加ターン呪文を12枚搭載したデッキが組めないだろうか?
だが、唱えたら強制敗北が決まるカードが2枚も3枚も手札に来ても、一発唱えた時点でゲームに負けるのでどうせ使えるのは1枚だけで意味がない……と、思われるかもしれない。
しかし、逆に考えてみよう。もしこれらの呪文によって運命づけられた敗北を回避できるとしたら?
《錬金術師の計略》も《栄光の好機》も《栄光の幕切れ》も、わずか3マナという破格のコストで実質追加ターンをノーデメリットで獲得できるカードへと早変わりするのである。
では、モダンにおいて敗北を回避するにはどうすればいいだろうか?
《試練に臨むギデオン》と《白金の天使》をデッキにぶち込めばいいのでは???
《試練に臨むギデオン》は3マナという圧倒的な軽さで敗北を回避できる優れものだ。その紋章の効果は「ギデオン・プレインズウォーカー」がいる間しか機能しないが、《錬金術師の計略》や《栄光の好機》による敗北は追加ターン終了時に一度だけ誘発する効果なので、その瞬間だけパスできれば通常どおりゲームを続行できる。
また、《白金の天使》は7マナと重いものの、デッキ内のアーティファクトを《白金の天使》のみにすることで、《向こう見ずな実験》でわずか4マナで着地させることが可能となる。
もちろん《白金の天使》が出た時点で大抵ライフはマイナスに突入することになるので《白金の天使》が死ぬと自分も死ぬという一蓮托生モードになってしまうが、その代わりに継続的に敗北を回避できるので、《試練に臨むギデオン》と違ってどれだけクリーチャーに殴られても負けなくなるというのは大きなメリットだろう。
あとは《否定の契約》や《否定の力》で《試練に臨むギデオン》や《白金の天使》を守ってやればいい。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
《孤独》が飛び交う環境で《白金の天使》はマゾすぎるという説もないではないが、ダイナミックかつカジュアルなコンセプトで楽しさは折り紙付きなので、普通のデッキに飽きたという方はぜひ挑戦してみて欲しい。
◇《嵐追いのドレイク》(?)
モダンで活躍するカードの条件として、「能力に上限がないこと」というのがある。
0~3マナと軽いことは最低限の条件だが、それに加えてその気になれば100回だろうと200回だろうと誘発させられる能力であることが、いわば「モダンで使われるかどうか」というキャズムを突破するための第二条件であることが多い。
そして『イニストラード:真紅の契り』のカードの中にも、そんな能力を持ったクリーチャーがいた。
《嵐追いのドレイク》だ。
対象に取るたびにカードを引ける能力ということで、通常はオーラや《巨大化》系呪文と組み合わせたくなるクリーチャーではある。
しかし、それでは原則として「対象に取る」という行動のたびにマナコストを支払うことになるので、たとえば3ターン目には上限として3枚までしか引くことができなくなってしまう。そしてその程度では修羅の国であるモダンを破壊することなど到底不可能だ。
つまりモダンを破壊するためには、マナに縛られず対象に取れるアクションが必要となる。
だが、そんな都合の良いアクションが存在するはずも……。
あった。
「ストーム」呪文で対象に取りまくればカードを引きまくれるのでは???
《大地の裂け目》はわずか1マナでクリーチャーを対象に取れる「ストーム」持ち呪文であり、同一ターンに呪文を唱えまくった後でこれを唱えて対象を全部《嵐追いのドレイク》にすれば大量ドローが見込める。
また、《ぶどう弾》も実質2マナの《大地の裂け目》として機能する。《大地の裂け目》との違いは、大量ドローする頃には《嵐追いのドレイク》が内臓ぶちまけて爆発四散することになることくらいだが、まあ仕方ないだろう。手札のための尊い犠牲となったのだ。
《賢い光術師》の「魔技」は「ストーム」によるコピーでも誘発するので、《嵐追いのドレイク》を引けなかった場合でも《大地の裂け目》や《ぶどう弾》で爆発的なサイズにまで成長して一瞬で相手を殴り倒すことができる。
また、《ニヴメイガスの精霊》は《嵐追いのドレイク》の大量ドローを誘発させた後で「ストーム」のコピーを全部追放してしまえるので、《嵐追いのドレイク》が《ぶどう弾》によって爆発四散するのを防いでくれるという優しい介護精神をも持ち合わせている。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
カード引きたいのか殴りたいのかどっちかにしろよと言われること必至の構成だが、大量に引いてオーバーキルしたいというガチと相反する欲望を持っているためこのような形となってしまった。でも溢れんばかりの手札から《大群の怒り》、打ちてぇよなぁ樺地?「ウス」
……と、ここまで書いてからMagic Onlineで一人回ししていたら致命的なミスに気が付いたのだが、《大地の裂け目》のテキストをよく読んで欲しい。
飛行を持たないクリーチャー1体を対象とする
飛行を持たない
飛行を持たない
《嵐追いのドレイク》対象に取れねーじゃねーか!!!
……すべてが無になった瞬間であった。
◇《雑食するもの、グロルナク》
新セットのデバッグをするということは、クソ長いカードテキストとも向き合わなければならないということでもある。
『イニストラード:真紅の契り』のカードの中には、一見何言ってるのかよくわからないテキストのカードが存在していた。
《雑食するもの、グロルナク》。最初は日本語版だけ読んだら「これ《面晶体のカニ》と2枚コンボで《タッサの神託者》出したら即勝利では???」と思ったが、さすがに英語版見たら土地は毎ターン1枚しか置けなさそうなのでブチ切れそうになったカードである。
だが、だとしても無限の可能性を秘めたカードであることに違いはない。何せ、ライブラリーからカードを削れるカードを連鎖させることができれば膨大なリソースを手にすることができるからだ。
では、このカードをモダンで使うにはどうすればいいだろうか?
そもそもモダンにおいて4マナが重いという話は別にしても、普通に考えればライブラリーからカードを削るのにはマナがかかる。そしてマナがかかるということは、《雑食するもの、グロルナク》による追放回数がマナの数に縛られてしまうということを意味している。それでは興奮できない。
マジック:ザ・ギャザリングにおいて興奮するためには、有限の向こう側……すなわち無限回の頂へと至る必要がある。では、無限に至るにはどうすればいいか?
結論は既に出ている。マナをかけずにライブラリーを削ればいいのだ。
そう、すなわち。
《昨日の首飾り》と十分な墓地がある状態で《研磨基地》を起動したら最終的に自分のライブラリーを吹き飛ばせるのでは???
《研磨基地》はアーティファクトが出るたびにアンタップする。したがって、《研磨基地》の能力を起動した結果《雑食するもの、グロルナク》で0マナのアーティファクトが追放され続ける限り、その都度アンタップしてライブラリー中の0マナアーティファクトを生け贄にしながらライブラリーを0枚にできるはずである。
しかし、0マナのアーティファクトだけでデッキを組むとそもそも《雑食するもの、グロルナク》を早出しすることもできない。そこで《昨日の首飾り》で1マナや2マナのアーティファクトも0マナにできる余地を残しておくことで、タフなデッキ構造を実現できる。
最後はライブラリーが吹き飛んだ状態で《タッサの神託者》を出して勝利という寸法だ。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
こんなことするより《死の国からの脱出》使った方が1000倍早いだろという悲しい現実があるのだが、《御霊の復讐》というモダン屈指のパワーカードを使えるのが《雑食するもの、グロルナク》のメリットなので、一応の差別化はできているということで溢れんばかりの嘘デッキ感は大目に見てもらいたい。ていうかそもそも《稲妻》1枚で落ちるタフネス3なのが全部悪い
◇《天使の拳、トーレンズ》
『イニストラード:真紅の契り』の中には、意外な点において唯一無二の能力を持つカードがあった。
《天使の拳、トーレンズ》だ。3マナという軽さであらゆるクリーチャーの召喚に無条件で反応してトークンを出せるカードは、おそらくこれまでのモダンには存在しなかった。
だがだとしても、ただトークンが出るだけではモダン級のコンセプトにはならないようにも思われる。
しかし、私は見出したのだ。《天使の拳、トーレンズ》が登場したことで、「とあるカード」が8枚積めるようになったということを。
実質《召喚士の契約》でサーチできる《起源室》では???
《起源室》はトークンでないクリーチャーが出るのに反応してトークンを生成するので、《天使の拳、トーレンズ》と近しい役割を果たすカードとなっている。
これらのカードの共通点は、0マナクリーチャーの召喚でもトークンが出せるという点だ。
そしてそんなカードが8枚積めるようになったということは、やることは一つだ。
そう、《唯々+諾々》と《調和の儀式》で引きまくるのだ (いつもこれだよ)。
というわけで、できあがったのがこちらのデッキだ!
実質2枚コンボが8枚ずつ積めて今度こそ理論上最強デッキかと思われたが、《天使の拳、トーレンズ》は3マナと重いので《召喚士の契約》でサーチしたターンに《唯々+諾々》《調和の儀式》と同時に唱えることがほぼ不可能である点が大分詐欺ーオブアレクサンドリアであった。《野生の朗詠者》や《スカークの探鉱者》と同じ能力を持つカードがあと2種類くらい出れば現実的なコンセプトになるかもしれない。
■ 3. 終わりに
結論としては、『イニストラード:真紅の契り』でもモダンに革命を起こすほどのコンセプトは登場しなさそうだというのが今のところの私の見立てだ。
というか、『モダンホライゾン』シリーズでもない限りそれを期待するのはさすがに無理があるのだろう。
しかしそれはそれでやりがいはある。ウィザーズとしてはそのつもりでも、デザイナーが意図しない形でこっちからバグらせてしまえばいいからだ。
「まあバグらないでしょ」と送り出されたカードをバグらせたときほど、デッキビルダーが喜びを覚える瞬間もない。
デザイナーといえど数千種類、数万種類のカードすべてとのシナジーを事前にチェックすることはおよそ不可能なはずである。どんなマイナーなカードに可能性が眠っているかわからない。
閃きが降りてくることを信じて、これからも新セットのカードを元気にデバッグしていこう。
ではまた次回!
数あるフォーマットの中でもモダンのカードは特に大歓迎!
もちろんモダン以外のフォーマットも喜んで買取させて頂きます。
宅配が利用できないような高額カードも出張買取でご自宅までお伺いいたします。
「イニストラード:真紅の契り」も買取金額高めで頑張ります。
お問い合わせお待ちしております
今回もまつがんさんの新コラム公開に合わせて特価商品をご用意!
今回もコラム内に登場するデッキリストの中から人気どころをセレクトしてみました(・∀・)
次回の記事は12/中旬頃公開予定。もちろん特価品もご用意致しますのでお楽しみに♪
記事公開のお知らせやキャンペーン情報はツイッター(@Time_Machine_Go)で公開中
フォローよろしくお願いします。
クソデッキビルダー。独自のデッキ構築理論と発想力により、コンセプトに特化した尖ったデッキを構築することを得意とする。モダンフォーマットを主戦場とし、代表作は「Super Crazy Zoo」「エターナル・デボーテ」「ステューピッド・グリショール」など。Twitter ID:@matsugan
記事一覧はこちら